最新記事
文学

『ハリー・ポッター』初版に隠された秘密...30年越しに話題「アメリカ版から消えた詳細」とは?

Harry Potter Fans Just Realizing They May Not Have Read the Original Books

2024年8月21日(水)17時40分
レイチェル・オコナー
ハリポタファンが知らなかったアメリカ版の変更 Brian McGowan-Unsplash

ハリポタファンが知らなかったアメリカ版の変更 Brian McGowan-Unsplash

<『ハリー・ポッター』第1巻が発売されてから約30年。今もなお、新たな発見がファンの間で話題を呼んでいる。その一つが、アメリカ版とイギリス版の小さな違いだ>

世界的ブームを巻き起こした小説「ハリー・ポッター」シリーズ第1巻が発売されてからほぼ30年。いまだにファンが知らなかった些細な事実が存在していた。

シリーズ初版が発売された1997年以来、イギリス版とアメリカ版には違いがあった。最も有名なのはタイトルの違いだ。

第1巻「ハリー・ポッターと賢者の石」のイギリス版は「Harry Potter and the Philosopher's Stone」。だがアメリカ版は「Sorcerer's Stone」に変更された。ほかにもアメリカの読者に親しんでもらうための変更はシリーズ作品を通じて多数ある。例えば「ジャンパー」は「セーター」に、「シャーベットレモン」は「レモンドロップ」になった。

ところがネット上で、ある変更をめぐって大きな騒ぎが持ち上がった。原因は、アメリカの読者の方が、イギリスの読者よりも与えられた情報が少なかったことにある。

アメリカ版から消えた詳細

論争に火を付けたのはコンテンツクリエーターのミカイラ(@magicbymikaila)。TikTokに投稿した8月5日の動画の中で、アメリカ版が変更されていたせいで、ハリポタクイズの答えを間違えたと訴えた。この動画の再生数は3万2000回を超えている。

ミカイラはちょっとしたイベントで、ハリポタ登場人物のシリウス・ブラックが使った魔法銀行グリンゴッツの金庫番号は? と質問されたという。

小説を数えきれないほど読み返した大のハリポタファンとして、この問いに答えはないとミカイラは確信した。イギリス版を読むまでは。

スカラスティック社が出版したアメリカ版のブラックの言葉はこうだった。「私は君の名を使った。だが彼らには、私自身のグリンゴッツ金庫から金貨を取り出せと言った」

一方、ブルームズベリー社が出版したイギリス版のブラックはこう言っていた。「私は君の名を使った。だが彼らには、グリンゴッツ711番金庫から金貨を取り出せと言った。私自身の金庫だ」

アメリカ版に加えられた変更の多くは(例えば「スイーツ」が「キャンディ」になるなど)、一般的なイギリスのフレーズに関してアメリカの読者の理解を助ける目的だったと解釈されている。だが金庫番号が完全に抹消された理由は、ミカイラにも、コメントを寄せた何百人ものユーザーにも分からなかった。

「ちょっと待って、どういうこと? 唯一の違いは『Sorcerer's Stone』という呼び方だけだと思ってた」というコメントや、「わざとだと思う。イギリス人はいつも些末なことで優位に立ちたがるから」という冗談も書き込まれている。

ブラックの言葉が変更された理由についてはさまざまな憶測が飛び交う中で、特に多かったのがセブンイレブン原因説だった。711という番号は冗談のネタになったかもしれないと推測する声や、子供が近所の店でブラックの金庫にアクセスしようとする可能性があったという声もある。

作者のJ・K・ローリングはかつて自分の著書に加えられた変更に言及し、ハリー・ポッターの出版が最初に認められた後、出版社からリクエストされたと語っていた。

アメリカ版についてローリングは、イギリス版が出版された翌年の1998年に出版する時点でSorcerer's Stoneのタイトルを使うことを承諾した。

ローリングはさらに、本名のジョアンではなく頭文字のJKを使ったのも出版社の提案だったと自身のウェブサイトで打ち明けている。JKの方が男子受けがいいという理由だった。

数十年を経てハリー・ポッター・シリーズは点字やラテン語も含めて80以上の言語に翻訳され、歴史に残るベストセラー本となった。

本誌はTikTokを通じて@MagicbyMikailaに連絡を取り、ブルームズベリーとスカラスティックにも電子メールでコメントを求めている。

(翻訳:鈴木聖子)

ニューズウィーク日本版 非婚化する世界
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年6月17日号(6月10日発売)は「非婚化する世界」特集。非婚化と少子化の波がアメリカやヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中