最新記事
映画

「同性愛者の神様」と「空飛ぶ女性器」!?...「俳優人生で最大の屈辱」と出演者が語るほどのキテレツ低予算映画『ディックス』とは?

Delightfully Depraved

2023年10月6日(金)14時00分
サム・アダムズ(スレート誌映画担当)

2人は全く違う環境で育ったが、驚くほどよく似た人生を送っている。2人とも、特権意識と自尊心が膨張した異性愛者白人男性を戯画化したような人物だ。

クレイグは妊婦を押しのけてタクシーに乗り、カフェでは大勢の妊婦たちが並ぶ列の先頭に割り込んで、注文してもいないコーヒーをバリスタから受け取る。

2人は次から次へと性的パートナーの女性を乗り換える(ただし、映画冒頭の字幕にあるように、シャープとジャクソンは同性愛者。字幕では、同性愛者役を演じる異性愛者俳優の「勇気」がたたえられる風潮をちゃかして、今作で同性愛者が異性愛者役を演じた勇気をたたえてみせる)。

生き別れた親を訪ねると

2人の勤務先の会社が合併して、スタリオン演じる上司の下、クレイグとトレバーがついに出会う。2人はバレバレのカツラで変装して入れ替わり、それぞれが生き別れていた親に会いに行く。

しかし、待っていたのは、感動のご対面とは程遠い経験だった。母親のエブリン(マラリー)と父親のハリス(レーン)は並外れた奇人変人だったのだ。

ハリスは、引きこもり状態の隠れ同性愛者で、檻の中で暮らすオムツをはいたしわくちゃの生き物(「下水ボーイズ」と呼んでいる)の世話に命を懸けている。エブリンも引きこもり状態で、万一必要になったときのために、擬人化した自分の女性器をビニール袋に入れて持ち歩く。

マラリーやレーンのようなベテランの喜劇俳優にとっても、ここまでぶっ飛んだ役はそうそう経験できない。2人とも、自分の限界に挑むことを楽しんでいるように見える。

レーン演じるハリスは、ハムが主食の下水ボーイズのために、ハムを口いっぱいに頰張ってくちゃくちゃとかみ、唾液と一緒にボーイズの顔面に吐き出したり、飛行機の中でエブリンの女性器に向かって歌声を披露したりする。

エンドロールの背景で映し出されるメーキング映像の中で、レーンはこの作品への出演を俳優人生で最大の屈辱だと語っている。この言葉には、ちゃめっ気と不承不承の敬意が混ざっているように見える。レーンはトロント国際映画祭の会場には来なかったが、この先のイベントではぜひとも姿を見たいものだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

鈴木財務相「財政圧迫する可能性」、市場動向注視と日

ワールド

UCLAの親パレスチナ派襲撃事件で初の逮捕者、18

ワールド

パプアニューギニアで大規模な地すべり、300人以上

ワールド

米、ウクライナに2.75億ドル追加軍事支援 「ハイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 3

    アウディーイウカ近郊の「地雷原」に突っ込んだロシア装甲車2台...同時に地雷を踏んだ瞬間をウクライナが公開

  • 4

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 5

    なぜ? 大胆なマタニティルックを次々披露するヘイリ…

  • 6

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 7

    批判浴びる「女子バスケ界の新星」を激励...ケイトリ…

  • 8

    これ以上の「動員」は無理か...プーチン大統領、「現…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 6

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 7

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 8

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 9

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中