最新記事

発達障害

発達障害の診断を受けた僕が、「わかってもらう」よりも大切にしたこと

2022年8月5日(金)12時00分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

余裕がなくなってくると、発達障害の特性も悪い方向に表れやすくなった。

妻が妊娠中のある夜、互いの仕事から帰る時間が合ったので、待ち合わせをして一緒に帰宅することにした。僕の帰りに、妻が時間を合わせてくれた。疲れていた僕はビールを買い、道路で歩いて飲み始めてしまっていた。

ゴクッとひと飲みして、ふと振り向くと、妻は静かに泣いていた。妊娠前には、お互いに一日の仕事が終わると一緒にお酒を飲むこともあったが、当然ながら妊婦はアルコール飲料を飲みたくても飲めない。身体の変化や不調があるなかで仕事をする疲労や、僕の配慮の無さへの悲しさがあいまって、涙が出たのだろう。相手の立場に立って考えるのが苦手な、僕のASDの特性の表れだったのかもしれない。

他にもすれ違いはあった。同僚の家に遊びに行く妻に、夕飯を食べてから帰ってくるか聞いたら、「食べない場合だけ連絡する」と言われた。僕はあいまいな情報が苦手で、困った。「どっちにしても連絡して」と伝えると、妻は不機嫌そうに見えた。本当に些細なことだが、すれ違いが積み重なった。

夫婦が合意形成する技術

自分が発達障害に気づいてから障害を妻に伝えるまで、長く間を開けた。その長さは、家族を幸せにできるイメージが湧くまでの慎重を期した時間だった。

発達障害のある夫との暮らしを扱った本では、夫婦で別居を始めてから「お母さん最近怒らなくなったね」と子どもに言われる描写を読んだ。別居合意書の草稿まで作っていた僕は、「確かに穏やかになることもあるだろう」と妙に納得していた。

一方で、自分自身が発達障害を受容することは、夫婦の修復につながるかもしれないとも感じ始めていた。

テレビを見て衝撃を受けてから約三か月後、焼肉を食べた帰り道で妻に「発達障害の傾向があるみたい」と一言。そして、本に付箋をつけて渡し、以後は「説明」を最低限にとどめた。休職や退職、救急車で運ばれる、伝えた話が伝わっていないなどの問題を妻には被(かぶ)らせてばかりだったから、「(発達障害という)また新しい問題がきた」と思わせたくなかった。「発達障害だから、こうすれば家庭がマシになる」と前向きな話題として伝えることを心がけた。そして、夫婦の「関係」に目を向けていくことに決めた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英住宅ローン融資、3月は4年ぶり大幅増 優遇税制の

ビジネス

LSEG、第1四半期収益は予想上回る 市場部門が好

ワールド

鉱物資源協定、ウクライナは米支援に国富削るとメドベ

ワールド

米、中国に関税交渉を打診 国営メディア報道
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中