最新記事

アート

圧倒的な謎、東京上空に現れた「巨大な顔」の舞台裏──「目[mé]」とはどんなアーティストか?

2021年12月20日(月)10時55分
岩崎香央理 ※Pen Onlineより転載
目[mé]《まさゆめ》

目[mé]《まさゆめ》/2019-2021, Tokyo Tokyo FESTIVAL スペシャル13/撮影:金田幸三

<誰とも知らない個人の顔を、公の空に浮かべる──矛盾を孕んだ作品「まさゆめ」は、いかにして実現したのか。Penクリエイター・アワード2021を受賞した現代アートチーム「目[mé]」が繰り広げる作品世界とは>

関東地方に梅雨明けが宣言された2021年7月16日。東京・代々木の空に奇妙な物体が忽然と浮かんだ。巨大でリアルな、人間の「顔」。表情は真顔で、男性のようだが女性にも見える。スマホで撮影する人、現場を確かめに行く人、状況がのみ込めないまま歩き去る人。公園を走るランナーが立ち止まり、「......誰⁉」とつぶやく。都心の日常へ突如切り込んだ異物に、世間はすぐさま反応した。

目撃者がSNSに写真を投稿、午前中には全国紙やネットメディアが記事を配信。現れたのは朝のほんのひと時だったことから、図らずも「顔」は強烈な謎を残して姿を消したかに見えた。だが、日が暮れた午後7時過ぎ、ライトアップされた顔が二度目の出現。さらには8月13日の早朝、今度は隅田川上空に同じ顔が浮上した。

それが現代アートチーム、目[mé]の仕掛けたプロジェクト『まさゆめ』。2020東京オリンピック・パラリンピック期間に合わせた東京都主催の文化事業として、3年がかりで制作された作品だ。顔のモデルは、1000人以上の候補者から選ばれた一般人。素性は明かされておらず、日程や場所も非公表の上で決行された。

pen211220_me2.jpg

目[mé]《まさゆめ》/2019-2021, Tokyo Tokyo FESTIVAL スペシャル13/撮影:金田幸三

実在する個人の顔を空に浮かべるアイデアは、目[mé]のアーティスト、荒神明香が14歳の頃に見た夢から始まった。

「電車の中から、空にぽっかりと大きな顔が浮かんだ光景を見ている夢。街の人が顔を一所懸命、空へ上げようとしているのがわかって、そのことにとても勇気づけられた」と、荒神は語る。

作家が見た夢という究極の「個人的」体験を、言わば最も「公的」な状況の東京で再現する――誰とも知らない個人の顔を、公の空に浮かべるという、根源的な矛盾を孕んだ作品として。「まさゆめ」は、その矛盾に向き合った3年間の結晶だと、目[mé]のディレクター、南川憲二は振り返る。

「個人が見た夢を、ある意味「公共事業」として実施する。根本的な矛盾を抱えつつ、緊急事態宣言のことやオリンピック開催の状況ともあいまって、非常に緊迫した中でプロジェクトは進められました。しかし考えや立場も違う東京都やアーツカウンシル東京、そして僕らアーティストが、本当に隠し事なしに考えを共有しながら実施できた。これはとても大きいことなんじゃないかなと思います」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

為替円安リスク「十分注意する必要」と新藤経財相、G

ビジネス

トランプ氏SNS企業、モルガンSなどが株式取得 第

ワールド

豪4月就業者数は予想以上に増加、失業率4.1%に上

ビジネス

米バークシャー、保険大手チャブ株を67億2000万
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 5

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 9

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 10

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中