最新記事

ドキュメンタリー

壊れかけでも「強い絆」は確かにあった、超大作『ザ・ビートルズ』が伝える真実

A Long and Winding Road

2021年12月24日(金)18時21分
カール・ウィルソン
『ザ・ビートルズ:Get Back』

『ザ・ビートルズ』は最新の技術で修整した映像により、当時20代後半だった4人の若さを鮮やかに伝える PHOTO BY LINDA MCCARTNEY. ©2020 APPLE CORPS LTD. ALL RIGHTS RESERVED.

<約8時間という超大作だからこそ『ザ・ビートルズ:Get Back』からは、時代を変えたバンドの創造性と心の機微がリアルに伝わる>

童顔の警官は、ピーター・ジャクソン監督が新作ドキュメンタリー『ザ・ビートルズ:Get Back』に盛り込んだ伝説の1つ。20歳そこそこにしか見えないこの若者、実はビートルズ最後のアルバム制作に迫った1970年の映画『レット・イット・ビー』にも映っていた。

69年1月30日、ビートルズは自らロンドンに設立したアップル・コア社の屋上で、突如ライブを行った。『ザ・ビートルズ』も『レット・イット・ビー』も、この伝説の「ルーフトップ・コンサート」がクライマックスだ。

騒音苦情が殺到し、ライブを止めようと駆け付けたのが、その童顔の警官だった。「治安妨害です。こんな騒ぎは必要ないでしょう?」

彼の言い分が間違っていたことは、歴史が証明している。これは時代を変えたロックバンドにとって、最後のライブになったのだから。

とはいえ、警官の制止も分かる。ビートルズは平日のオフィス街で白昼堂々、ゲリラライブを敢行したのだ。

『ザ・ビートルズ』は『レット・イット・ビー』用に撮影された60時間の映像と150時間の音声を再構成し、ライブまでの紆余曲折を伝える。

最先端のデジタル技術を使い、ビートルズを古い映像の墓場からよみがえらせた点も素晴らしい。映像もサウンドも、きのう撮影・録音されたかのように鮮やか。ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スターの4人組がこれほど生身の、そして現代の人間に見えたのは初めてだ。

自社ビルの屋上しか行き場がなかった

ビートルズは当時、身動きが取れなくなっていた。どこに行ってもマスコミやファンに追い掛けられて安全すら確保できず、66年には公演活動を停止。67年にマネジャーのブライアン・エプスタインが死去するとグループの結束は弱まり、20代後半だった4人は私生活の変化もあって、関係がぎくしゃくした。

新しいアルバム用に曲を書いて公演を行うと決めたが、期限を69年1月末としたことが4人の首を絞める。年初にスタジオに入ったものの曲作りは思うように進まず、リハーサルの時間も会場の選択肢も日に日に減っていく。結局4人には、自社ビルの屋上しか行き場がなかった。

ディズニープラスで配信中の『ザ・ビートルズ』は150分の映画として劇場公開されるはずが、コロナ禍で映画館が閉鎖。ジャクソンは映像を追加し、8時間近い3部構成の超大作に仕上げた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米大統領選、バイデン氏とトランプ氏の支持拮抗 第3

ビジネス

大手3銀の今期純利益3.3兆円、最高益更新へ 資金

ワールド

ニューカレドニアの暴動で3人死亡、仏議会の選挙制度

ワールド

今年のユーロ圏成長率、欧州委は2月の予想維持 物価
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 8

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中