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気が滅入る「老人地獄」は、9年後にさらに悪化する

高齢者の過酷な現実を描いた『ルポ 老人地獄』だが、本当に怖いのは「2025年問題」であり、その先だ

2016年1月12日(火)15時46分
印南敦史(書評家、ライター)

ルポ 老人地獄』(朝日新聞経済部著、文春新書)は、2014年1月から15年3月にかけ、朝日新聞の経済面に掲載されていた連載を加筆修正した書籍。その連載には「報われぬ国」というタイトルがついていたが、たしかにこれは、"どう考えても報われそうにないこの国"で暮らすすべての人が読んでおくべき内容だといえる。なぜなら私たちは例外なく、誰もがやがて老いていくからだ。


 二月の深夜は底冷えがする。老人たちは分厚いふとんにくるまり、頭だけを出して目をつぶっている。そこには、六十代から百歳近い男女十人が同じ部屋に雑魚寝状態で横になっていた。
 ......自分だったら、こんな部屋で寝ることができるだろうか。本当は起きている人がいるのではないか。(16ページより)

 本書は、記者のこのような思いからスタートする。埼玉県東部の住宅街にある、築40年近い二階建て一軒家についての描写。東京の介護サービス会社が借り上げ、日中は高齢者が通う「デイサービス(通所介護)」の施設だ。しかし夕方に帰る利用者は少なく、大半はそのまま「お泊まり」するのだという。

「お泊まりデイ」と呼ばれるシステムだが、先の文章に明らかなとおり、そこに安堵できる環境はない。その証拠に、ここから先に描かれているのは、施設内でのノロウイルスの蔓延(職員まで感染したというのだから、考えただけで恐ろしい)、11針を縫う怪我など、読んでいるだけで気が滅入ってくるような現実だ。


 民間の有料老人ホームは、一般の人には敷居が高い。入居時に払う一時金は必要がない施設から億円単位までかかる施設まで幅広いが、通常、数百万円はかかる。(中略)それらに比べれば、お泊まりデイは安い。丸一日親を預かってもらって、介護保険の自己負担分と食費などを合わせて三千円ほど。(中略)そのため、お泊まりデイにはほとんど家に帰っていない高齢者も多くいるというわけだ。(22~23ページより)

 しかし、安さの裏側には理由があって当然だ。人手不足はサービスの低下に結びつき、やがては虐待にもつながっていくのかもしれない。事実、この施設のような介護保険外のサービスや無届けの老人ホームだけでなく、自治体のチェックが働いているはずの有料老人ホームでも虐待が確認されているという。

 ちなみに高齢者に対する虐待は、①身体的な暴力②脅したり侮蔑したりする心理的虐待③生活に必要な介護をしない④預貯金などの財産を奪う経済的虐待⑤性的な虐待などがあるという。⑤に至っては理解することすら難しいが、問題はそれだけではないはずだ。

 たとえば本書でも「私はあんな施設には二度と入りたくない。もう歌を歌うのが嫌で嫌で」という90代男性の言葉が紹介されている。「お年寄りは歌を歌うもの」という前提でいる側との価値観の違いも、どこかで確実に事態を深刻化しているはずだ。

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