最新記事

BOOKS

不倫はインフルエンザのようなもの(だから防ぎようがない?)

画期的な切り口で不倫を社会問題として捉えた『はじめての不倫学』だが、共感できる部分とそうでない部分がある

2015年12月21日(月)15時25分
印南敦史(書評家、ライター)

はじめての不倫学――「社会問題」として考える』(坂爪真吾著、光文社新書)は、不倫を社会問題として捉えた書籍である。不倫は本来、個人の倫理観や道徳、あるいは夫婦の問題として考えられてきたものだ。また、それ以前にイリーガルな行為として捉えられているだけに、この切り口は画期的かもしれない。

 ユニークなのは、不倫をインフルエンザのような「感染症」として捉えている点だ。インフルエンザへの感染は、基本的に防げるものではない。普通に社会と接していれば、たとえワクチンを打ったとしても効かないときもあるし、打たなくてもかからない人もいる。

 だから「インフルエンザウイルスはなぜ存在するのか」と議論してみたところで説得力はなく、感染した人に対して「努力が足りない」「自己責任だ」と避難することも無意味だという考え方である。

 そこで「いつ、どこで感染しやすいのか」(感染経路)を明確にし、「感染する確率を減らすためにはどうすればいいのか」という予防策(ワクチン)と、「もし感染してしまった場合、どうすれば本人の重症化、及び周囲への感染(被害拡大)を最小限に食い止められるか」に関する処方箋が必要だというのだ。

 まぁ、わからなくはない。私も男である以上、いつ、なにがきっかけで"そうなる"かについて責任が持てるとはいい切れないだろうし。というよりも、「責任が持てる」と断言してしまったとしたら、その方がよっぽどウソくさい。ただ、そうはいってもこの考え方には、どこかモヤモヤしたものを感じてもしまうのである。

 たしかに、「いつウイルスに感染するかわからない」という意味においては、誰にだってその可能性はある。けれど、「好きになっちゃったんだから仕方ないじゃん!」的な理由であるならまだしも、本書に登場する不倫経験者の、以下のような"スノッブな感じ"がよくわからないのだ。


 婚外交渉の理由は、妻への愛情がなくなったからではなく、あくまで夫婦間の性的ギャップにある。自分の性欲が強く、妻は性的に淡白で頻繁にはできないから、外で別の女性としているだけ、という話だ。そのため、婚外セックスはするが婚外恋愛はしない。それが大人のマナーだ。(113ページより)

 ここで、「それ、マナーかよ」と感じてしまった私は精神的に幼いのだろうか? そこそこ恋愛経験はあるし、修羅場もくぐってきたつもりなのだけど......。

 ましてや「不倫をしたことで精神的な落ち込みがなくなり、仕事にも集中でき、子どもにも優しくできるようになった」(104ページより)とか、「賢一さんには『困っている女性を、心身ともにサポートしたい』という動機があるという。決して、自分だけが気持ちよくなりたい、という自己満足ではない」(111ページより)というような考え方を目にすると、「それ、全部自分に都合のいい考え方じゃね?」という思いを否定できなくなってしまうのである。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

OECD、世界経済見通し引き上げ 日本は今年0.5

ワールド

ロシア製造業PMI、4月は54.3 3カ月ぶり低水

ビジネス

午後3時のドルは155円半ば、早朝急落後も介入警戒

ビジネス

日経平均は小幅続落、連休前でポジション調整 底堅さ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中