最新記事

在日外国人

ママたちの不安を知る、型破りな保育園経営者(1/3)

2015年9月9日(水)16時40分

 東京に着くと、その友人が当座の住まいを探してくれましたが、生活するにはお金がいります。日本語もわからないのに、どうして仕事が見つかるでしょう。唯一の仕事は、やはりバーのホステスでした。いっそのこと帰国しよう。でも身分を証明するものさえなくて、どうやって帰国しよう。どうにか帰国しても家族になんて説明するのか、などと思い悩み、結局、日本に残ってから考えようと決めたのです。

 脱出してから、例の会社の人間がすぐに私の家族に連絡し、私が逃げたことを伝えました。しかも私が数々の悪事を働いたといい、私に連絡をとってただちに戻ってこさせろ、でないと暴力団や警察が捜し出すぞ、とおどしたのです。恐ろしかった。本当に、日本全国の暴力団と警察が私を捜すのだと思いました。

 東京で、ついに私を引き取ってくれるバーを見つけ出しました。台湾人のママが開いたところです。彼女はとてもいい人で、住まいと食事をあてがってくれました。そのバーは家庭的な小さな店で、5、6人も入ればいっぱいのスペースです。ふだんはトイレ掃除や接客などを手伝いました。そこで半年ほど働いて、最初の夫と知り合いました。そのころ彼はバーの顧客で、しょっちゅう来店していたのです。本当にいい人だと思いました。かなり年上でしたが、当時の私にはよりどころが必要だった。それで彼とつきあい始め、結婚、出産に至りました。

わが子を入れた保育園への不満

 そのころ私は、日本には保育園や幼稚園が少ないと感じていました。区立の保育園に入れたくても、順番待ちをしなければならない。公立のほうが、費用が安いからでした。やっとのことで子どもを保育園に入れたのですが、言葉が通じないのはやっぱりつらかった。しかもそこでの保育の仕方は、私にはわからないことが多かったのです。

 たとえば子どもがおもらしをすると、先生は部屋の外で子どもを椅子に座らせて、母親が来るのを待たせます。私には理解できなかった。先生がなぜ衣類をとりかえてくれないのか、しかも部屋の外に座らせるのか。私は区役所に苦情をいいに行きましたが、彼らも私の話が聞き取れない。ただ、私が怒っているのがわかるだけでした。あまりに多くの苦労がありました。また子守りに関して、夫ともめることもよくありました。

 保育園は子どもの入園前に、親を教育します。まず子守りや子育て、子どもの教育がいずれも親の仕事であり、保育園は手助けするだけだと教えます。たとえば園内で子どもが体調をくずします。ふつう1日に2回、子どもの体温をはかりますが、体温が37・5度を超えると保育園は電話で「すぐ迎えにくるように」と親を呼び出します。しかし子どもはいつ病気にかかるかわからない。子どもの急病ですぐ休むような母親を雇いたいという経営者は多くありません。

 私はそのころ、息子を2歳で保育園に入れました。入園させたら、アルバイトをするつもりでした。でも全く働けなかった。しかも先ほど述べた、おもらしのあとの保育園の対処法に、私はとまどいを覚えていました。

 保育はまず、子どものことを考えなければなりません。親なら当然子どものことを考えるでしょう。実際、親と先生の目標は一致していて、全て子どものため、であるはずです。ですが、私の1人目の子が入園した保育園では、先生は子どもを見るより、自分を守ることのほうが多いように思えました。保育園で何か事故があってはならないからです。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インドとパキスタン、即時の完全停戦で合意 米などが

ワールド

ウクライナと欧州、12日から30日の対ロ停戦で合意

ワールド

グリーンランドと自由連合協定、米政権が検討

ワールド

パキスタン、国防相が核管理会議の招集否定 インドに
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 3
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノーパンツルックで美脚解放も「普段着」「手抜き」と酷評
  • 4
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 5
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 6
    教皇選挙(コンクラーベ)で注目...「漁師の指輪」と…
  • 7
    指に痛みが...皮膚を破って「異物」が出てきた様子を…
  • 8
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 9
    「股間に顔」BLACKPINKリサ、ノーパンツルックで妖艶…
  • 10
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 6
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 7
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 8
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 9
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 10
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 8
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中