最新記事

世界経済入門2019

宇宙で始まった欧米の新バトル 経済版スターウォーズの勝者は?

A NEW STAR WARS SAGA: EPISODE ONE

2019年1月9日(水)11時25分
前川祐補(本誌記者)

ALEXLMX/ISTOCKPHOTO

<シリコンバレーの巨大IT企業が投資家の関心を集めるがヨーロッパの宇宙ベンチャーが激しく追い上げる>

※ニューズウィーク日本版SPECIAL ISSUE「世界経済入門2019」が好評発売中。貿易戦争、AI、仮想通貨、循環型経済、ブレグジット、日本経済、そして「来るべき危機」......。トレンドワード10&投資家パックンの超解説も収録。教養としての経済知識を学び、マネーの流れを読む1冊です。
(この記事は「世界経済入門2019」の1記事)

冷戦時代に米ソが雌雄を競い合った宇宙空間は今、世界中の企業がしのぎを削る一大市場に変わろうとしている。それも、飛び切り巨大な市場に。

バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチによれば、宇宙ビジネスの市場規模は30年以内に3兆ドルに迫る。これは現在のスマホ市場の約8倍、成長著しいAI(人工知能)市場の約140倍に成長する勢いで、同社が「投資分野で最後のフロンティア」と評価するのもうなずける。もはや宇宙を語らずして世界経済の先行きを見通すことは難しい。

では宇宙ビジネスを牽引するのは誰か。多くはイーロン・マスクと答えるだろう。火星移住計画や月旅行などの大胆な宇宙事業で注目を集めているだけでなく、メディアに対する挑発的な言動も相まって宇宙ビジネスの申し子のように語られる。

しかし、実際に宇宙ビジネスをリードするのはマスクを含めた「シリコンバレー連合」と言うのが適切かもしれない。つまりアメリカのIT企業だ。

宇宙ビジネスは多岐にわたるが、大きく2つの分野に分けられる。打ち上げと衛星データだ。宇宙へ行くための手段である打ち上げ事業とデータビジネスはこの産業の両輪だが、注目を集めているのは衛星データビジネスだ。

米投資銀行のモルガン・スタンレーは2017年、宇宙ビジネスの成長から最も利益を得ると見込まれる企業20社を「SPACE20」として選定した。

20社には、グーグルやフェイスブック、それにマイクロソフト、クアルコムなどアメリカのネットや通信系企業がずらりと並ぶ。衛星データビジネスは、簡単に言えば人衛星を使って地上のあらゆる動きをデータとして集め、それを必要とする政府機関や企業に提供する。衛星を利用したビッグデータビジネスとも言える。

例えば、農業では土壌の状況や、作物の生育状況をタイムリーに把握することで収穫高をより正確に計算できるようになる。アメリカのように広大な農地が点在する国では特に効果的だ。環境保護や防災にも役立つ。

土砂災害の状況を精緻に分析することで、危険地域を一度に特定できるようになる。リスク分析の手法が変われば、さまざまな保険ビジネスにも利用されるだろう。防犯にも応用できる。不法移民の監視だけでなく、違法な森林伐採や密漁の監視も可能になる。衛星から魚群を探るセンサーにも注目が集まっている。

【関連記事】「投資家パックン」と読み解く、2019年世界経済の新潮流

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 8
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中