最新記事

ヨーロッパ

ギリシャ新首相を待つ神経戦の行方

国民の緊縮財政への不満を背景に総選挙で勝利したツィプラスは債権国との条件交渉を切り抜けられるか

2015年2月10日(火)16時56分
ポール・エイムズ

さあ交渉だ 緊縮財政終了の公約を掲げて当選した急進左派のツィプラス新首相 Marko Djurica-Reuters

「屈辱と苦悩の5年間は終わった」。1月25日、ギリシャ総選挙で勝利を手にした急進左派連合(SYRIZA)の若き党首アレクシス・ツィプラス(40)は支持者の前で緊縮策の終焉を叫んだ。

 国民の多くも同じ思いだろう。09年の欧州債務危機の発端となったギリシャでは、その後の5年間でGDPが4分の1ほど減り、行政サービスや生活の質も低下した。失業率と貧困率は今や記録的な高水準となっている。

 悪いのは中道左派や右派の既成政党だ、奴らが勝手に国の借金を膨らませ、揚げ句の果てにEUの奴隷となって緊縮策を導入し、国民に犠牲を強いてきた。有権者の多くはそう考えていた。だからSYRIZAは今度の選挙で、有権者に希望のメッセージを伝えた。若さあふれるツィプラスは緊縮路線の転換を宣言し、債務の減免を勝ち取り、富裕層への課税を強化し、雇用を拡大すると宣言した。

 一方で中道派の浮動票を取り込むため、NATO(北大西洋条約機構)脱退の主張は取り下げた。またユーロ圏にとどまるとも約束した(国民の70%以上もそう望んでいる)。

 しかしツィプラスが選挙公約を守ろうとすればEU諸国との、とりわけ総額2400億ユーロに上るギリシャ救済策の最大の拠出元であるドイツとの衝突は避け難いだろう。

 対立の火種はほかにもある。比例代表制の選挙で、SYRIZAは単独過半数に2議席足りなかった。そこで連立相手に選んだのが右派政党の独立ギリシャ人(ANEL)。だが移民や教育の問題から同性婚まで、ANELの主張はSYRIZA支持者の左派体質と相いれない。外交面でロシア寄りという点を除けば両党を結び付けるものはただ1つ。債務返済条件を再交渉し、そのためならEUとの対決も辞さないという決意だけだ。

 しかしツィプラスが連立協議をまとめる前から、債権国側は返済条件の大幅緩和には応じない姿勢を示している。彼らは従来の返済計画を遵守し、緊縮政策を続けるよう求めていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元カレ「超スター歌手」に激似で「もしや父親は...」と話題に

  • 4

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 9

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 10

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中