最新記事

キャリア

世界に「輸出」されるイギリス執事の技

80年代には絶滅しかかった伝統の職業が、世界からのラブコールでよみがえった

2013年5月31日(金)13時26分
コリーン・パーティル

伝統の力 しっかりした訓練を積んだイギリスの執事は世界中で引く手あまた Gareth Cattermole/Getty Images

 イギリス経済は厳しい状況が続いているが、1つだけ明るい分野がある。執事の求人だ。世界の最富裕層の資産が増え続け、執事の世界的な需要は過去50年で最も高まっている。

 控えめで完璧な気品を備え、シャンパンの栓抜きもデジタル機器の文字入力もスマートにこなす──そんなイメージを持つイギリスの執事は、超リッチな人々にとってフェラーリに匹敵する必須のステータスシンボル。世界の最富裕層の邸宅や個人所有のヨット向けに大量に「輸出」されている。

 おかげで一時は絶滅寸前だった職業が息を吹き返した。国際プロ執事組合によると、1930年代のイギリスには3万人いた執事も、貴族の優雅な暮らしが過去のものになった80年代には100人前後に減っていた。だが現在、国内で働くイギリス人執事は推定5000〜1万人。国外での雇用はさらに多い。

 ただし、仕事の中身は様変わりした。現代の執事は個人秘書と世話係、家事責任者、運転手、イベント・プランナーを兼務する存在だ。

 ヨーロッパの上流階級は収入が目減りしたため、複数の仕事を1人の人間に任せて人件費を節約するようになったと、執事養成教室を運営するロビン・スチュアートは言う。「今の執事は薪割りをした次の瞬間には、お茶会にやって来た公爵夫人を案内しなくてはならない」

 待遇は新人で年4万5000ドル程度。執事頭になれば16万ドルにもなる。ただし執事の訓練と紹介を行うイギリス執事協会のゲイリー・ウィリアムズによれば、高給取りの執事は「自分の時間がほとんどない」と言う。

金融危機も悪影響なし

 世界金融危機で大半の家庭が財布のひもを固く締めても、執事の学校や職業紹介所への求人に影響は出なかった。顧客の超富裕層は通常の経済的現実の外にいるからだ。「危機の時期も急激な景気の落ち込みはなかった」と、ロンドンの金融街シティーで執事の訓練・紹介機関を運営するサラ・ベスティン・ラフマニは振り返る。

 08年のリーマン・ショック直後、金融街には失業者があふれたが、「需要は落ちなかった」と、ラフマニは言う。「真の富裕層は不景気の影響を受けない。むしろもっと裕福になる。その意味で私たちは幸運だった」

 国際プロ執事組合によれば、求人は欧米に加えてロシアや中東、インド、東アジアからも来ているが、別格なのは中国だ。今やほぼすべての紹介機関が中国に支部や代理人を置いている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英中銀が金利据え置き、総裁「正しい方向」 6月利下

ビジネス

FRB「市場との対話」、専門家は高評価 国民の信頼

ワールド

ロシア戦術核兵器の演習計画、プーチン氏「異例ではな

ワールド

英世論調査、労働党リード拡大 地方選惨敗の与党に3
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 3

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 4

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 5

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 6

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 7

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 8

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 9

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 10

    上半身裸の女性バックダンサーと「がっつりキス」...…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 8

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 9

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中