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電気自動車テスラがアメリカでバカ売れ中

大手メーカーがEVで苦戦するなか、儲けをたたき出したテスラの収益源とは

2013年5月23日(木)15時53分
ダニエル・グロス(ビジネス担当)

これがEV? テスラが昨年発表したSUV「モデルX」にも期待が James Fassinger-Reuters

 消費者にすれば高過ぎるし、メーカーにすれば儲けを出すのが大変過ぎる。もう長いこと、電気自動車(EV)の評判はよくないものばかりだった。

 それを裏付ける証拠もそろっている。ゼネラル・モーターズ(GM)によれば、プラグイン式ハイブリッドカー「シボレー・ボルト」は1台販売するごとに赤字が出る。日産自動車は100%電気で走る「リーフ」の生産・販売を小規模ながら続けているが、黒字かどうかについては明言を避けている。自社のEV生産について、具体的な損益を公表するメーカーはない。

 だがスポーツカー仕様のEVメーカーで、シリコンバレーに拠点を置くテスラモーターズはちょっと違う。少なくとも先週発表された同社の第1四半期決算は、高級EV車の生産・販売台数を十分なレベルに保てば利益が出ることを証明した。

 テスラがEV生産を開始したのは08年で、最近になって生産台数を拡大したばかり。今年の第1四半期の純利益は1124万ドルになった(売上高は5億6200万ドルで、前年同期の18倍以上)。四半期決算で黒字を計上したのは、03年の創業以来で初めてのことだ。

 テスラには3つの収益源があり、いずれもEVに関係している。主な収入源は、自社ブランドのEV車の生産・販売だ。例えばセダンタイプの高級車「テスラ・モデルS」。標準価格は約6万2000ドルで、第1四半期の販売台数は4900台だった。つまり1カ月に約1600台売れた計算になる。

 製造業の素晴らしい点は、生産規模が大きくなれば、売り上げだけでなく収益力も増えること。靴からコンピューターまでどんな製品にも当てはまるのだが、生産量が増えるにつれて1台当たりの生産コストが減少し、利益率が高まっていくのだ。

環境ポイントで収益拡大

 テスラにも、この「規模の経済」効果が表れ始めている。同社によれば、車1台の生産に要する時間(これもコスト)が数カ月で40%削減できたという。
コスト削減のもう1つの方法は、収益を生まない在庫や余分の原材料を極力減らし、資金を有効に使うこと。ここでもテスラは進歩を遂げた。在庫を減らし、余分な原材料に掛かる物流コストも減らすことで手元資金が3000万ドル増加した。

 テスラの2つ目の収益源は、同業他社に製品や技術を売ることだ。自動車の電動化はメーカー各社にとって大きな課題。できるだけガソリンを使わず電気で代替するためのバッテリーや部品の技術を求めている。テスラへの引き合いは強い。

 例えば、トヨタのSUV「RAV4」のEV版に搭載されているパワートレインとバッテリーを生産しているのもテスラだ(採算は不明)。メルセデスベンツのBクラスのEV版の電気モーターも共同開発しており、その売り上げはこの第1四半期で約700万ドルに上った。

 3つ目の収益源はEVそのものではなく、環境政策に関係するものだ。

 アメリカの連邦政府や州は規制により、排ガスを出さない無公害車を生産・販売するメーカーに税額控除を認めている。その基準を満たすために一部メーカーは、無公害車の販売実績に応じて付与される環境ポイントをテスラのようなメーカーから購入している。第1四半期でテスラが環境ポイント売却で得た6800万ドルは、全売上高の12%に及ぶ。

 ただし肝心なのは純利益だ。その純利益が示しているように、少なくとも今年の第1四半期でテスラはEVの生産・販売で利益を伸ばし、他社のために作った製品や環境ポイントの売却でも利益を上げた。この実績に肩を並べられる大手自動車メーカーは今のところない。

[2013年5月21日号掲載]

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