最新記事

資源

日本がエネルギー大国へ?「燃える氷」に熱い期待

海底のメタンハイドレートからのガス採取に成功し、日本版「シェール革命」に期待がかかる

2013年4月11日(木)14時33分
アンソニー・フェンソム

エネルギー自立へ 日本周辺海域では海洋資源の調査・開発が続く Kiyoshi Ota-Bloomberg/Getty Images

 日本近海の海底に眠る「燃える氷」が日本の天然ガス需要を今後100年間賄う──というのは政府の幻想だろうか。

 日本は資源に乏しく、エネルギー供給はもっぱら輸入頼み。膨大なガス資源が自国の排他的経済水域(EEZ)に眠っているとしたら、日本にとっては形勢逆転のチャンスだ。

 日本政府は3月中頃、海底下のメタンハイドレート(天然ガスの一種であるメタンガスと水が結晶化した氷状の物質)からガスを採取することに世界で初めて成功したと発表した。愛知・三重両県沖の海域(東部南海トラフ)で深度約1000メートルの海底面からさらに約330メートル掘削。メタンハイドレート層の圧力を下げる「減圧法」でメタンハイドレートを水とガスに分解し、ガスだけを回収した。

 この海域のメタンハイドレート埋蔵量は推定1・1兆立方メートルで、日本の液化天然ガス(LNG)輸入量の11年分に相当する。日本近海には、現在の天然ガス消費量の約100年分に当たる7兆立方メートルのメタンガスが埋蔵されているともいわれる。

 経済産業省は来年度にもガス産出試験を再度実施し、15年度に開発コストの試算を発表する構えだ。3月に政府がまとめた「海洋基本計画」の原案は、18年度までにメタンハイドレートの生産技術を開発し、23年以降の商業化を目指すとしている。「日本はついに独自のエネルギー資源を獲得するかもしれない」と独立行政法人の石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の川本尚実(たかみ)は言う。

 JOGMECは08年、カナダの永久凍土内のメタンハイドレート層から6日間連続でメタンガスを産出する試験に成功した。メタンハイドレートのほとんどは海底にあるとみられ、海底から採取可能となれば、資源に乏しい日本にとって重要な変化を意味する。

「採取できることは分かった。次の課題はどこまでコストを抑えて採算の取れる生産技術にできるかだ」と、産業技術総合研究所の佐藤幹夫は語っている。

生産コストが最大の壁に

 日本はLNGでは世界最大、石炭では世界第2位の輸入国だ。エネルギー価格の高騰で昨年の貿易赤字は史上最大となり、今年2月には円安も響いて輸入額は前年同月比でLNGが約19%、原油は約12%急増した。こうした対外依存は日本の戦略的弱みとなってきただけに、今回の産出成功は朗報だ。

 世界全体のメタンハイドレートの推定埋蔵量は、少なくとも約2800兆立方メートル。全米の天然ガス消費量の4000年分に相当するが、米地質調査所によれば、「濃集度や技術的な問題でエネルギー資源調査の対象になり得るのはごくわずか」だという。

 最大の壁はコストだ。海底のメタンハイドレートからガスを産出するコストは、天然ガスの取引単位である100万BTU(英国熱量単位、天然ガス25立方メートルに相当)当たり約50ドルの見込み。一方、アメリカ国内のシェールガスは3ドル、日本が輸入しているLNGは15ドルだ。

 環境への影響も懸念されている。メタンの温暖化効果は二酸化炭素の最大21倍ともいわれる。

 それでも、これらの壁さえクリアできれば日本のエネルギー自立も夢ではないと、米エネルギーコンサルティング会社ウッド・マッケンジーは指摘する。「本格的な商業化が可能になれば、世界のエネルギー市場における日本の位置付けは一変し、日本はガス輸入国から自給国に変わるはずだ」
 
 アメリカのシェールガスの例もある。ガス資源超大国の座も夢ではないかもしれない。

[2013年4月 9日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インド与党が野党・イスラム批判の動画投稿、選管が削

ビジネス

米ロイヤル・カリビアンが世界で採用活動、約1万人を

ビジネス

中国大手金融機関で大型リストラ相次ぐ、IPOやM&

ワールド

米、イスラエルへの兵器輸送を停止 ラファ侵攻阻止の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 6

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 10

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中