最新記事

キャリア

アップルの猛禽文化と競争原理主義

2012年8月2日(木)16時28分

アップルではほとんどの人がボーナスなし

──日本人として危機感は感じないか。

 感じる。日本人もいないわけじゃないが、少ない。残念だ。頭が悪いわけではなく、周囲に合わせる人が多いから、自分が当事者になってわざわざ大変なことはやろうとしないのが原因ではないか。

──どう対抗すればいいのか。

 競争に慣れ、面の皮を厚くすることが大切。日本人はちょっと攻められたりなじられたり叱られたりすると、いちいちショックを受けるようなナイーブな人が多い。それではまったく通用しない。いちいち他人の言葉に傷ついていたら身が持たないし、イヤな事があっても明日は明日の風が吹くと思える楽観さも必要だ。いじけているヒマがあったら誰も文句が付けようがないようなアピール方法や反撃方法を考えたほうがいい。

──日本企業も変わる必要がある。

 競争を持ち込めばいい。たとえばアップルは、ボーナスに大きな個人差がある。ほとんどの人は1ドルももらえないが、もらえる人は驚くような額をもらえたりする。急に車を買い替えたりするからすぐわかる。露骨に差をつける。

 逆にこいつは使えないとなれば、ある日突然、上司に呼ばれてクビを言い渡され、ガードマンに付き添われながら自分のオフィスに戻って箱に私物を詰めておしまいだ。僕自身何人も辞めさせて、ソーシャルサイトに名指しで「くたばれ!」と大書され身の危険を感じたことさえあったが、そんなことでいちいちひるんでいたら何もできない。評価基準を明確にし、競争させ、成果を上げたものには明確な報酬を与え、役に立たない人には辞めてもらうことで組織の新陳代謝を促していくことが重要だ。

──今は、クパティーノで保育園「つくしデイケア」を経営している。保育園を作ろうと思ったのはなぜか。

 高校生の息子が2人いるが、僕はあまり自分の子供を信じなくて、僕が思う方向に行かせようとし過ぎた反省が一つ。またアップルでは、人を育てるということを全然しなかった。ダメな奴は辞めさせて使える奴を取ればいい、という発想にうんざりした。僕の経験では、変わる人は変わる。背中を上手に押してあげたり環境を変えたりすれば。大人であんなに変わるなら、子供はもっと変わるはずだと思った。

 シリコンバレーは教育熱心で、早くから読み書き計算と外国語を教える。すると3歳で時計が読めるのに靴履けないとか、字は書けるのに洋服は自分で着られない子が出てくる。順番があべこべ。僕の保育園は基本的には遊ばせてるだけ。集団生活の中で自分たちで押し合いへしあいしながら学んでもらう。できるだけ介入しない。まずは自分で身支度、そしておもちゃの取り合いを自分たちで解決できるようにする。読み書きそろばんはその後でいいじゃないか、という発想。自分の頭で考え、自分たちで解決を計れる子どもたちを育てたい。

──日本の若者も、猛禽類の巣に飛び込んでみるべきか。

 もちろんだ。百聞は一見に如かず。猛禽文化に飛び込んで、僕より先へ進んでほしい。アップルで猛禽類と戦ったら、僕には「競争のコア」が見えた。良し悪しの問題ではなく、現実に存在する大きな競争の論理だ。そういう新しい視点を得られたことは何よりの収穫だと思う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ政権、「聖域都市」条例巡りボストン市を提訴

ワールド

フィリピンCPI、8月は前年比+1.5%に加速 予

ワールド

韓日米、15日から年次合同演習実施 北朝鮮の脅威に

ビジネス

日立、米国で送配電機器の製造能力強化 10憶ドル超
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害」でも健康長寿な「100歳超えの人々」の秘密
  • 4
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 5
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 6
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 8
    世論が望まぬ「石破おろし」で盛り上がる自民党...次…
  • 9
    SNSで拡散されたトランプ死亡説、本人は完全否定する…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 7
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 10
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中