最新記事

テクノロジー

iPadはアメリカで作るべきだ

都合のいい時だけアメリカ政府に駆け込んで助けてもらいながら、生産はできないと言うのは身勝手過ぎる

2012年3月28日(水)17時17分
ダニエル・ライオンズ(テクノロジー担当)

社会的責任 アメリカ企業として恩恵を享受している以上、アップルはお返しをする義務がある(ニューヨークの新店舗) Eduardo Munoz-Reuters

「iPhoneをアメリカで作れないものか」というオバマ米大統領の問い掛けに、生前のアップルCEO、スティーブ・ジョブズはこう答えた。「それらの仕事はもう戻ってこない」

 1年も前の話だが、ジョブズが死んで数カ月もたった今頃になって論争を呼んでいる。今や世界一価値ある企業になったアップルは、国内では本当に価格競争力のあるiPhoneやiPadを作れないのだろうか。

 アップルは無理だと言うが、本当はできるに決まっている。アメリカ人はBMWの車やボーイングの航空機だって造っている。iPadの部品だって作れないことはない。本当の問題はアメリカで作れるかどうかではなく、作るべきか否かだ。

 国内で作るべきだと言うのは、雇用改善を求めるウォール街占拠運動の活動家だけではない。「アップルはアメリカ企業であることによって大きな恩恵を被ってきた。国に対しても一定の責任がある」と、レーガン元大統領時代のUSTR代表だったクライド・プレストウィッツ米経済戦略研究所所長は言う。

 1980年代、円安のため対日輸出に苦しんだアップルは、米政府が外圧をかけることを望んだ。「アメリカ政府はアップルを助ける義務があると考えていたようだ」と、プレストウィッツは回想する。業績不振に苦しんだ90年代には、本社があるカリフォルニア州と市から税金を安くしてもらった。

 今でも国外で製品の海賊版が見つかると、アップルは取り締まり強化を求めて米政府に駆け込む。「どこかの重役が『私は株主に対して責任を負う、国ではない』と言うのを聞くたび、こう言いたくなる」と、プレストウィッツは言う。「それなら知的所有権を侵害されたときも政府に助けは求めないことだ」

 iPadやiPhoneの組み立てがどこで行われようと、さほど心配はないとプレストウィッツは言う。重要なのは、スクリーンやマイクロプロセッサなどの中核部品の製造を取り戻せるかどうかだ。これらの技術を外国に渡してしまうのは、種もみを食べてしまうようなもので、二度とコメを作れなくなる。

 今でこそアップルは、人件費の安い国で作ったエレクトロニクス製品を高く売ることで大儲けしている。だが中核部品の開発を外国任せにして、優秀なエンジニアのための雇用をつくり出せなくなれば、いずれは競争力を失うことになる。

[2012年2月22日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トヨタ、円高や資材高で今期2割の営業減益に 米関税

ビジネス

ニデック、牧野フへのTOB撤回 対抗策で損害「経済

ビジネス

三菱自、日産の米工場へ共同投資を検討 今期3割の営

ビジネス

任天堂、スイッチ2は今期1500万台計画 社長「立
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗と思え...できる管理職は何と言われる?
  • 4
    中高年になったら2種類の趣味を持っておこう...経営…
  • 5
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..…
  • 6
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 7
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 8
    「関税帝」トランプが仕掛けた関税戦争の勝者は中国…
  • 9
    あのアメリカで「車を持たない」選択がトレンドに …
  • 10
    日本の「治安神話」崩壊...犯罪増加と「生き甲斐」ブ…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 8
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 9
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 9
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中