最新記事

世界経済

TPPアメリカの本音と思惑

2011年12月26日(月)15時07分
デービッド・ピリング(英フィナンシャル・タイムズ紙アジアエディター)、横田 孝(本誌編集長)

「特別扱いは認めない」

 アメリカには国内産業界からの突き上げもある。ようやく太平洋地域に外交の焦点をシフトしたものの、気が付けばアメリカはアジア諸国とのFTA締結で後れを取っていた。

「その結果、米企業は低関税やゼロ関税の適用を受けられず、アジア貿易でますます不利な立場に置かれている」と言うのは、米国務省とUSTR(米通商代表部)の元アジア専門家ブライアン・クラインだ。「1つの商品がさまざまな製造工程を経るなかで、(関税率が)1%違うだけでも価格競争力に大きな影響を与える」

「交渉に譲歩は付き物だ」と、クラインは続ける。「この種の交渉で柔軟に対応しやすい領域は、国内法の実施時期や関税率の引き下げ時期だろう」

 しかし「レベルの高い」協定ではその柔軟性にも限界がある。米政府としては、既存のFTA(例えばシンガポールとのFTA)よりも条件を緩和することは難しいだろう。

 実際、米政府のTPP推進派の間では、日本が参加すれば交渉の進捗が遅れ、TPPの最終的な効果が薄まると懸念する声がある。例えば日本が農業などの領域で例外扱いを求めれば、他の交渉国からも同様の扱いを求める声が噴出する。

 こうした懸念についてトム・ドノヒュー米商工会議所(USCC)会頭は「この交渉にお子様用のテーブルはない」として、特別扱いを認めるべきでないと主張している。それが嫌なら日本をTPP交渉から完全に外したほうがましだと、アメリカのTPP推進派は思うはずだ。

 そうなれば、日本は中国と同じように、事の成り行きを指をくわえて見ているしかない。

[2011年11月30日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ドル、第1・四半期の世界準備通貨の構成比が低下 

ワールド

スコットランド警察、トランプ米大統領訪問に向け事前

ワールド

トランプ氏、フィリピンなど6カ国に関税率を通知

ワールド

ロシア、ウクライナ東部要衝で前進と表明 弾薬庫や飛
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 5
    人種から体型、言語まで...実は『ハリー・ポッター』…
  • 6
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 7
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 8
    【クイズ】 現存する「世界最古の教育機関」はどれ?
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 7
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 8
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中