最新記事

テクノロジー

脱アップルの波は電子書籍ストアから

2011年3月9日(水)15時46分
ファハド・マンジュー

 電子書籍分野におけるアップルのライバルたちは、これまでもネットを駆使してiPhoneユーザーに製品を販売してきた。例えばiPhoneでキンドルのアプリを使って本を買おうとすると、アマゾンの携帯サイトにジャンプする。そこで購入を完了(およびアマゾンのアカウントで決済)すると、キンドルのアプリが起動して、買ったばかりの本が現れるという具合だ。

 この遠回りな方法にはアマゾンにとって明らかなメリットがある。アプリ内課金の場合は、アップルに販売価格の30%を手数料として支払う必要があるが、アプリの外へユーザーを連れ出せば支払わなくて済む。

 アップルの声明は、この慣行にまさに狙いを定めていた。「当社はアプリ外での書籍購入を可能にするアプリには、アプリ内で購入した顧客にも同じ選択肢を提供するよう求める」。つまり、今後も書籍販売者のサイトに購入者を誘導することを認めるが、アップル経由でも本が買えるようにするのが条件、というわけだ。

 ライバルだって制限をかけているじゃないか、とアップル支持者は指摘するだろう。アマゾンはiBooksやグーグルブックス、その他コピー防止機能付きのコンテンツをキンドル経由で購入させない。ということは、真の悪者はアマゾン・ドットコムのジェフ・ベゾスCEOではないのか、と。

 2つの閉鎖的なプラットフォームのどちらが「邪悪」かなんて、どうでもいい話だ。私は以前から、アマゾンは競合他社の電子書籍もキンドルで読めるようにすべきだと主張してきた。その考えは今も変わらない。

 それ以上に気掛かりなのは、アップルがアップストアを下手にいじくり回していることだ。iPhone、iPad、iPodタッチのユーザー数はキンドルよりはるかに多いから、影響を受ける人も多い。それにアップルの方針はさまざまな分野に影響する。

 アップルは電子書籍に続いて、オンラインDVDレンタルのネットフリックスや動画配信のHuluプラス、音楽アプリのパンドラ、さらにアマゾンのウインドーショップのような、はるかに一般的なeコマースアプリに狙いを定めているはずだ。キンドルで売る電子書籍の販売価格の30%を欲しがるくらいだから、次はキンドル本体について同じことを要求するだろう。

携帯ユーザーが狙い目

 それならアマゾンは自発的にアップストアからキンドルのアプリを撤収すればいい。代わりに携帯サイト用キンドル端末を作るべきだ。

 ブラウザベースのアプリで、iPhoneおよびiPad用キンドルアプリのあらゆる機能を提供する。本を買う、読む、ブックマークする、マーカーで印を付ける、読んでいる個所をほかのキンドル対応端末と同期化する、などだ。

 そう難しいことではない。アマゾンは既にフルブラウザ対応のキンドル端末を生み出している。さらに携帯サイトはどんな端末を使ってもほぼ変わりがないから、携帯サイト版キンドルはアップル以外のさまざまな携帯型端末でも使える。

 ネット用アプリへの移行は、ネットフリックスやHuluやパンドラなど、携帯ユーザーにコンテンツを売りたい企業にもおすすめだ。アップルは明らかにアップストアからライバルを締め出そうとしている。そんなアップルの言いなりになる必要などない。

Slate.com特約

[2011年2月23日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦力増強を指示 戦術誘導弾の実

ビジネス

アングル:中国の住宅買い換えキャンペーン、中古物件

ワールド

アフガン中部で銃撃、外国人ら4人死亡 3人はスペイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中