最新記事

経済成長

破綻した中国の儒教資本主義

アメリカへの輸出に頼れなくなって、消費者不在の成功モデルが内部崩壊し始めた

2011年2月22日(火)21時05分
ヌリール・ルビーニ(ニューヨーク大学経営大学院教授)

 伝統的な中国の経済成長モデルが成立する条件は、アメリカとその他数カ国が過大な消費を続けてくれることだった。これらの浪費大国が稼ぎを上回る消費で貿易赤字を膨張させ続けてくれれば、その需要に輸出で応える中国には貿易黒字が積み上がる。

 だがこのモデルは壁に突き当たっている。ひょっとすると既に崩壊したかもしれない。なぜなら、アメリカは政府・民間共に債務が過大になり過ぎて、とうとうデレバレッジ(借金への依存度を減らすこと)へと追い込まれているからだ。アメリカ人消費者は支出を切り詰め、国全体では輸入を減らして、借金返済のための貯蓄を増やすしかない。

 中国の成長がアメリカの借金に依存している証拠に、米政府が財政赤字を減らし始めると、中国の貿易黒字は急減した。

 それでも、中国は年率8%強の経済成長を維持してきた。それはなぜか。貯蓄を減らして消費を増やしたからではない。代わりに、商業用不動産や住宅、道路や空港、高速鉄道などのインフラ、そして既に過剰になっていた生産設備などへの投資をますます加速させたのだ。

 設備、住宅、公共投資などから成る中国の固定資産投資は今やGDPの50%近くなっている。

過剰設備と不良債権の山

 毎年GDPの半分を固定資産に投資し続ければ、最終的にはどんな国でも膨大な過剰設備と不良債権の山を築くことになる。従って中国は、貿易黒字と投資に頼る成長モデルを貯蓄を取り崩して消費を拡大させる方向へと劇的にシフトさせる必要がある。

 だが、中国が消費を大きく上回る過剰貯蓄を抱えている背景には多くの構造要因がある。中国の個人消費はGDPの36%で、アメリカや、インド、ブラジルなどの新興国の約半分だ。

1)公的年金に頼れない。退職後の生涯給付額がたった150㌦なので、老後に備えて必死で貯蓄をしなければならない。

2)子供を私立校に進学させるための学費が欲しいし、公的医療制度も貧弱なので病気への備えも必要。

3)「鉄飯碗(食いっぱぐれがない)」と言われた国有企業による終身雇用は崩壊し、失業した場合の社会的セーフティーネットも整備されていない。

4)一人っ子政策がもたらした少子化のために、子供たちが老親の面倒を見るという従来の「社会保障モデル」が機能しなくなった。最悪の場合、子供1人で2人の親と4人の祖父母を支えることになり、負担が大き過ぎる。

5)住宅ローンやクレジットカードなど個人向けの金融サービスが未発達で、消費の伸びを抑制している。

6)農村から都市に出稼ぎに来る農民工と呼ばれる肉体労働者は、労働条件が劣悪で地位の保障もないため貯蓄に励まざるを得ない。一方、農村では収入の増減が激しく、都市部のような公共サービスも利用できない。

7)実を言えば、平均的中国人の貯蓄率は香港やシンガポールや東アジアのそれと大して変わらない。倹約を美徳とし、所得の3分の1を貯蓄に回す儒教信者である点は共通している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

オランダ政府、ネクスペリアへの管理措置を停止 対中

ワールド

ウクライナに大規模夜間攻撃、19人死亡・66人負傷

ワールド

ウクライナに大規模夜間攻撃、19人死亡・66人負傷

ワールド

中国、日本産水産物を事実上輸入停止か 高市首相発言
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 5
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中