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アメリカ社会

メディアが作る偽トレンドの見抜き方

具体的なデータもなく流行をでっちあげるインチキ報道に惑わされるな

2010年11月10日(水)18時15分
ジャック・シェイファー

油断禁物 大手メディアだって信用できない

 私がオンライン雑誌スレートでガセネタのトレンド記事を紹介しはじめたのは2003年。都合のいいエピソードをいくつか羅列し、偏見を織り交ぜることで、社会全体に大きなトレンドがあるかのように話を膨らませた記事を暴いてきた。

 つい先日槍玉に挙げたのは、10月末にニューヨーク・タイムズ紙のトレンドセクションに掲載された「シャワーを浴びず、シャンプーもしない人が増えている」という記事。「偉大なる不潔な人々」というショッキングな見出しが話題になったが、記事に登場する人々は一部の人よりシャワーを浴びる回数が少ないだけで、アメリカ人の清潔信仰に変化が生じているとはいえない。

 他にも数多くのネタについて、根拠が薄かったり、論理のすり替えが行われている記事を数多く指摘してきた。ニューヨークの犯罪者にはヤンキースの帽子を被った人が多いとか、女性が大きな胸より小さな胸を誇るほうになったとか、中国では処女膜再生手術が、アメリカでは目を大きく見せるコンタクトレンズが大ブームだとか、インド人になりすます在米パキスタン人が増えているとか──。

"some"が使われたら要注意

 私には、ガセネタ記事を探す強力な援軍がいる。スレート読者だ。おかしな記事を見つけた読者からの「通報」メールが届かない日はない。どこがおかしいのかを要約したコメントが付けられていることも多い。
 
 ガセネタ記事を見分ける指標の一つが、some、few、often、seems、likely、moreのような単語が使われていること。こうした曖昧表現を入れておけば、記者は断定的な物言いをするのと同時に逃げ道も作っておける。

 エピソードが並んでいるだけで、新たなトレンドの存在を裏付ける具体的なデータが示されていない記事も怪しい。「信頼できる数字を入手するのは難しいが」というフレーズが登場したら、ガセネタと思って間違いない。

 怪しい記事を見極めるスレート読者の眼力が素晴らしいので、私は今回、ガセネタ記事探しを読者にお任せして、その日の「最優秀賞」を選ぶ役目に徹することにした。では、最新作を発表しよう。

 11月9日の最優秀賞は、ウエディングドレスのトレンドに関するCNNドットコムの記事「伝統に抵抗する花嫁たちが純白のウエディングドレスを拒否」とそれに対する読者の批評。エピソードだけで構成された記事で、白以外のドレスを選ぶ女性についてきちんと検証されていない、と指摘している。


 CNNドットコムに11月5日に掲載された記事によれば、結婚式にカラードレスを着るのが流行っているという。記事には花嫁3人とウエディングプランナー3人が登場するが、見出しの文言を裏づけるような内容ではない。ウエディングプランナーたちは、大半の花嫁は伝統的な白ドレスを好む一方、カラードレスも合わせて着る人もいるとコメントしている。

 記事は、カラードレスを選ぶのは再婚女性が多いとも指摘しているが、そんなことは誰でも知っている。結婚式にかける費用の増加という本題に関係ない統計をもち出したところをみると、記者も自分の主張を裏付けるデータがないことに気がついたようだ。


「富裕層も激安ショップへ」?

 11月8日の最優秀賞は、リサイクルショップがクールに変身したというAP通信の記事「不況化で富裕層の過去の偏見は消え去った」。

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