最新記事

エネルギー

自家発電ブームに電力会社の反撃が始まった

ソーラーパネルを屋根に設置する家庭や企業が急増し、電力供給で独占を維持したい電力大手との間に緊張が生まれている

2009年8月26日(水)18時11分
マシュー・フィリップス

エコの脅威 ソーラー自家発電が普及すれば電力会社の商売は減る(写真はマンハッタンで最も大きな自家発電装置) Chip East-Reuters

 しばらく前までは、自宅の屋根は雨をしのぐための存在にすぎなかった。それが最近では、電気を生みだす宝に変わりつつある。

 不景気にもかかわらず(不景気だからこそかもしれないが)、住宅の屋根を利用したソーラー発電は注目の的。自宅の屋根をミニ発電所に変えて電気代を節約するという発想に魅力を感じるアメリカ人が大幅に増えている。2008年にアメリカで新設された住宅用のソーラー発電システムは、前年の63%増の3万3500件にのぼる。

 一方、ソーラー発電業界のもう一つの主役である大規模な発電施設の雲行きは怪しい。広大な砂漠に何万枚ものソーラーパネルと送電線を設置する巨大プロジェクトを統括するのはたいてい、20世紀始めからアメリカの電力網を独占したきた電力会社だ。彼らは、ソーラー発電の世界でも中心的な存在になるはずだった。

 だが今のところ、電力会社の取り組みは個人によるソーラー自家発電に大きく水を開けられている。州際再生可能エネルギーカウンシルの06~08年の調査によれば、家庭でのソーラー自家発電による電力供給が計522メガワットに達したのに対し、電力会社の施設での電力供給は96メガワットに留まった。

 このままでは、電力会社はエネルギー産業への影響力を失いかねない。さらに、1300億ドルに上る家庭向け電力供給の市場も縮小するのではないか。懸念を募らせた電力会社は、家庭用ソーラー発電の普及を阻止するための反撃に乗り出した。

自家発電の優遇策撤廃を求める電力会社

 コロラド州では2週間前、州内最大の電力会社エクセルが、ソーラーパネルを設置している住宅や企業に電気代の追加料金を課すという法案を通過させようとした。これによる利益は推定1億8000万ドル。だが市民の怒りが爆発し、結局、ビル・リッター州知事の圧力もあって提案は取り下げられた。

 ニューメキシコ州では7月上旬、州内最大の電力会社PNMが、ソーラーパネルを設置した家庭や企業に対する優遇策を大幅に削減するよう公式に要求。カリフォルニア州でも、1300万人に電力を供給しているサザン・カリフォルニア・エジソン社が砂漠の町パームスプリングスの市議会議員に対して、ソーラー自家発電の余剰電力を市が買い取るという法案を撤回するよう求めた。
 
「家庭や企業でのソーラー発電と電力会社の間には緊張関係がある」と、ソーラー発電を推進する「ボート・ソーラー・イニシアティブ」のアダム・ブラウニングは言う。「電力会社は100年間、市場を独占してきたのに、今後は自家発電によるクリーンなエネルギーが主役になりそうだ。だから、彼らはそこでも利益を上げて主導権を維持したいと考えている」

 もっとも、電力会社のそうした思惑を非難していいのかという疑問はある。資本主義社会では当然の対応という見方もできる。

 それでも、「独占企業には国民の利益を考える義務がある」と、ブラウニングは言う。「人々が自宅の屋根にソーラーパネルをほしがるなら、電力会社は邪魔するのではなく協力すべきだ」
 
 住宅や企業、学校、さらには政府の建物にまでソーラーパネルを設置するという考え方を電力会社が気に入らないのは当然だろう。すべての建物が自力で発電できるようになったら、電力会社のビジネスモデルは崩壊する。だから、彼らは昔からソーラー発電に反対してきた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

鈴木財務相「財政圧迫する可能性」、市場動向注視と日

ワールド

UCLAの親パレスチナ派襲撃事件で初の逮捕者、18

ワールド

パプアニューギニアで大規模な地すべり、300人以上

ワールド

米、ウクライナに2.75億ドル追加軍事支援 「ハイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 2

    批判浴びる「女子バスケ界の新星」を激励...ケイトリン・クラークを自身と重ねるレブロン「自分もその道を歩いた」

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 5

    なぜ? 大胆なマタニティルックを次々披露するヘイリ…

  • 6

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 7

    これ以上の「動員」は無理か...プーチン大統領、「現…

  • 8

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 9

    アウディーイウカ近郊の「地雷原」に突っ込んだロシ…

  • 10

    台湾の電車内で、男が「ナイフを振り回す」衝撃映像.…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 6

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 7

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 8

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 9

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 10

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中