最新記事

太る中国、干からびるロシア

中国vs世界

権益を脅かす者には牙をむく
新・超大国と世界の新しい関係

2010.10.26

ニューストピックス

太る中国、干からびるロシア

このままではロシアは中国の燃料タンクになる。脱・依存を目指すなら競争力を磨くべきだ

2010年10月26日(火)12時05分
オーエン・マシューズ(モスクワ支局長)

 ロシアは中国と最近やたら仲がいい。世界最大のエネルギー生産国とそのエネルギーの最大の消費国という、お似合いの組み合わせだ。しかも中国にはロシアの石油や天然ガスや鉄鋼やアルミニウムを生産されるそばから買いまくる財力がある。化石燃料の害悪や独裁政治について説教される心配もない。ロシアがヨーロッパではなく中国と仲良くして何が悪い?

 でも中国に頼り過ぎてはいけない。理由は単純だ。1年前、ロシアのドミトリー・メドベージェフ大統領は正しい「診断」を下した。原材料輸出に頼り過ぎていることがロシアの根本的な問題であり、肥大化し腐敗した官僚制度と世界の商品市場に振り回される経済が諸悪の根源になっている。ロシアの未来は「原材料ベースの原始的な経済と腐敗の蔓延」ではなく、ロシアの知力に立脚する知識経済にあると、メドベージェフは主張した。

 しかし中国との経済的な結び付きを強化すれば逆効果だ。ロシアの豊富な鉱物資源への依存をかえって強めてしまう。

 もちろん、中国のカネを受け取ったからといって、メドベージェフを責めることはできない。ロシアの最も重要な輸出品のためには新たな顧客を開拓する必要がある。ロシア国営のパイプライン運営企業トランスネフチと中国石油天然気集団(CNPC)は、ロシアのスコボロジノと中国の大慶を結ぶ約1000キロの新パイプラインを建設。先月末に行われた完工式には、メドベージェフと胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席がそろって出席した。この先もシベリアと中国を結ぶ石油やガスのパイプライン建設計画がめじろ押しだ。

 ロシア国営石油最大手のロスネフチとCNPCは総額50億ドルを投じて天津に製油所を建設中。27日の中ロ首脳会談では、1060メガワットのロシア製原子炉2基を上海付近に建設することでも合意した。

国営主体は相変わらず

 とはいえ、長期的にはこの手の合意はロシア経済最大の欠点を定着させてしまう。こうした合意のほとんどは、民間企業間ではなく国営企業間で結ばれている。それは仕方がない側面もある。国営大手でなければ、スコボロジノと大慶を結ぶパイプラインのように250億㌦の資金と15年の歳月を要するプロジェクトの資金は賄えない。しかし、ロシアが経済危機からなかなか回復できないのは国営部門が大きくなっているせいだと、多くの専門家は指摘する。

 99〜04年にかけて、近代化への投資のおかげでロシアの民間石油会社の生産は50%増加した。ところが政府が脱税などを理由に民間最大手のユコスを解体、事実上国有化した「乗っ取り」事件を受けて、成長はぱったり止まった。今ではガスプロムやロスネフチといった国営大手による魅力的な投資話があるにもかかわらず、ロシアの石油・天然ガスの純生産量は年次ベースで0・29〜1・24%減少する見込みだ。

 原子炉(ロシアの知力が付加価値を生み出す製品だ)を中国が買うというのは確かに朗報だ。しかしメドベージェフがモスクワ郊外に建設予定の「イノベーション都市」スコルコボへの投資を促すと、胡はやんわりと辞退した。外国の産業に投資するより、電子機器や航空やバイオなどの分野で自前の産業を育てたいと思うのは無理もない。

 現に07年以降、中国はロシア製軍需品の購入を大幅に減らしている。これはもっぱら、ロシア製の軍用機やロケットや潜水艦や軍艦を人民解放軍が自力で「コピー」できるようになったからだ。言い換えれば、中国はロシアのノウハウとエネルギーを使い、ロシア製の鉄鋼やアルミニウムをハイテク製品に加工している。その結果、ロシアは単なる原材料供給国と化し、一方の中国はその原材料に付加価値を付けて世界に売りさばき、大儲けしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

カタール空爆でイスラエル非難相次ぐ、国連人権理事会

ビジネス

タイ中銀、金取引への課税検討 バーツ4年ぶり高値で

ワールド

「ガザは燃えている」、イスラエル軍が地上攻撃開始 

ビジネス

独ZEW景気期待指数、9月は予想外に上昇 「リスク
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中