最新記事

【10】グラス・スティーガル法無視がサブプライムを生んだ。

ウラ読み世界経済ゼミ

本誌特集「世界経済『超』入門」が
さらによくわかる基礎知識

2010.04.12

ニューストピックス

【10】グラス・スティーガル法無視がサブプライムを生んだ。

2010年4月12日(月)12時05分

 銀行が証券の売買を行うのを禁止したことで有名なグラス・スティーガル法は、アメリカで1933年に成立した銀行法の通称。サブプライム危機を生んだのはこの法律だ。いや、正確に言えばこの法律の「否定」が、今回の危機の発生につながる大きな要因だったとする見方が強い。

 グラス・スティーガル法は、1929年に始まった大恐慌への反省に基づいて作られた。大恐慌前には一般預金者のための銀行(商業銀行)も証券を扱うことができ、銀行自らの投資のためや一般に売るために株を買っていた。このため、株価の急落で損害を被った銀行が続々倒産し、閉鎖した銀行は1万行に及んだ。

 証券取引は価格変動のリスクが大きい。つまり、高い利益を生む可能性もあるが大損もする。だから、個人の預金を預かって金融の仕組みの中心を担う商業銀行は参入すべきではない。それが制定に尽力したカーター・グラス民主党上院議員(元財務長官で連邦準備制度の創設者)とヘンリー・スティーガル同下院議員の考えだった。

 この法律により、個人から預金を集めて企業に貸す商業銀行と、証券の売買を手伝ったりする投資銀行(企業相手の証券会社)が分離(銀証分離)。つまり安全度の高い貯蓄用銀行と、高いリスクを取る投資用の銀行に分けられた。

 だが、この銀行と証券・保険の分離は高い利益を挙げるためには邪魔で、金融界ではとても不人気だった。80年代に入ると規制緩和の流れのなかで徐々に緩和され、ついに99年の金融制度改革法で完全に撤廃された。

 その結果、業態の垣根を越えた金融機関の吸収・合併が続き、投資銀行と商業銀行と保険を兼業するような総合金融機関がたくさんできた。そして大手銀行が住宅ローン担保証券(MBS)やCDO(債務担保証券)などの複雑な金融商品を売買したり、保有したりすることが可能になった。

 経済学者のジョセフ・スティグリッツは「リスクを顧みない投資銀行の文化が商業銀行にも伝わったことが問題だった」と言う。

 グラス・スティーガル法が否定されたことで、安全なはずの商業銀行もリスクが高いサブプライム関連の証券化商品の保有・投資ができるようになった。そして、今回の危機の被害は拡大した。

[2009年4月15日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:中国で値下げ競争激化、デフレ長期化懸念 

ワールド

米政権、農場やホテルでの不法移民摘発一時停止を指示

ワールド

焦点:イスラエルのイラン攻撃、真の目標は「体制転換

ワールド

イランとイスラエル、再び相互に攻撃 テヘラン空港に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラドールに涙
  • 3
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 4
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 5
    ひとりで浴槽に...雷を怖れたハスキーが選んだ「安全…
  • 6
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 7
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    プールサイドで食事中の女性の背後...忍び寄る「恐ろ…
  • 10
    救いがたいほど「時代錯誤」なロマンス映画...フロー…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中