最新記事

【事例2】カトリーナが生んだ救援システム

クラウド化知的生産革命

仕事の効率化から「知」の創造まで
新世代コンピューティングの基礎知識

2010.02.04

ニューストピックス

【事例2】カトリーナが生んだ救援システム

現場で入力されたデータを一元管理、支援の進捗度を常時把握する

2010年2月4日(木)12時05分
ラーナ・フォルーハー(ビジネス担当)

 テキサス州を拠点とするネイバーフッド・センターズは全米で最も規模が大きく、最も急拡大しているNPO(非営利組織)の1つ。メキシコ湾岸地域の住民20万人以上を対象に高齢者支援や児童保護プログラムを提供する一方で、世界最大級のNPO資金調達団体ユナイテッド・ウェイと提携して災害救援活動も行っている。

 トム・コメラは4年前、ネイバーフッド・センターズの情報システムなどを統括するCIO(最高情報責任者)に就任した。その2週間後、米南部にハリケーン「カトリーナ」が上陸。数週間後にはハリケーン「リタ」も襲来した。

 ハリケーンが来る前、コメラはネイバーフッドの情報管理体制に自信を持っていた。だがハリケーン被害で、多くのバックアップディスクが消失。個別事例の概略をまとめた重要なファイルも失われ、支援する被虐待児童や高齢者に関する情報が消えてしまった。

「カトリーナのおかげで、情報システムに問題があることが分かった」と、コメラは言う。「どんな対策を取ってもファイルを失う可能性は残る」

 そこで決断したのが、IBMが提供するクラウド・コンピューティングサービスの導入だ。ファイルなどを自前のサーバーに保存することをやめ、IBMのクラウドにすべてを預けることにした。

 賢い決断だった。08年、ハリケーン「アイク」がテキサス州の湾岸地域に上陸したが、ネイバーフッドの情報システムはまったく被害を受けなかった。

「本当にほっとした」と、コメラは話す。「緊急援助団体は自然災害に迅速に対応する必要がある。だが自分たちのデータが安全でなければ、その務めを果たせない」

 クラウドはデータを守るだけではない。コメラによれば、これまで不可能だった方法でネットワークを利用する道も開けた。

救援活動向けのクラウドアプリ

 クラウド・アプリケーションの「プロミス」を使えば、家庭の事情で朝食や昼食が取れない児童に無料で食事を提供するプログラムの担当者は、何食分を提供したか市内のどこにいてもデータを入力できる。コスト面の理由でコンピューターの一元管理を行えなかった以前はできなかったことだ。

 支援する児童や高齢者の家を訪問したケースワーカーが、ノートパソコンや携帯電話を使ってデータを入力することも可能になった。彼らが電話で伝える情報は、音声データをネット経由で送受信するボイス・オーバー・インターネット・プロトコル(VoIP)技術を使って自動的にセンター専用のクラウドへ送られる。

「現場へ行って活動を行い、事務所に戻って報告書を作成するのでなく、リアルタイムで資料を更新できる」と、コメラは言う。「個々のケースに、より望ましいタイミングで対応できるようになった」

 ケースワーカーに掛かる負担も軽減しているという。データを直接入力できるため、現場で手書きした内容をコンピューターに打ち込む手間が省ける。おかげで1件の事例に割く時間も、データの入力ミスも減っている。

 アプリケーション「ターグ」の力も大きい。ハリケーンなど自然災害時の支援活動担当者はこのアプリケーションを利用して救援物資をどれだけ提供したか、何が必要か、何人の被災者が避難したかなどのデータを報告している。

「クラウドが実現するオートメーション化は援助活動の在り方を変える可能性を秘めている」と、コメラは語る。「これからの活動はずっと効率的になるだろう」

[2009年10月28日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、グリーンランドで「後戻りない」 欧州首

ビジネス

日経平均は続落で寄り付く、700円超安 米欧摩擦や

ワールド

米、NATO人員約200人削減計画か 欧州で懸念強

ビジネス

新興国経済、投資鈍化し潜在能力を十分発揮できず=世
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」の写真がSNSで話題に、見分け方「ABCDEルール」とは?
  • 2
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 3
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で国境問題が再燃
  • 4
    「耳の中に何かいる...」海で男性の耳に「まさかの生…
  • 5
    「死ぬところだった...」旅行先で現地の子供に「超危…
  • 6
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 7
    トランプが「NATOのアメリカ離れ」を加速させている…
  • 8
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試…
  • 9
    【総選挙予測:自民は圧勝せず】立憲・公明連合は投…
  • 10
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世…
  • 1
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 2
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 5
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 6
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 7
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 8
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 9
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で…
  • 10
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中