コラム

人間の脅迫観念を強烈に表す「モデルと鶏」

2017年07月12日(水)10時46分

From Romina Ressia @rominaressia

<ポートレートの中に古典的な要素とブラックユーモアを持ち込み、人間のオブセッションを探求する南米アルゼンチンの芸術家ロミナ・レッシア>

南米の偉大な芸術家には、コロンビアの小説家ガブリエル・ガルシア・マルケスをはじめ、魔術的リアリズムの匂いを解き放っている者が多い。アルゼンチンのブエノスアイレス郊外の小さな村で生まれ育った、ロミナ・レッシアもそんなタイプの芸術家だ。ポートレート写真の中に古典的な要素と皮肉やブラックユーモアを持ち込み、人間のオブセッション(取りつかれた脅迫観念)を探索している。

まだ36歳ながら、レッシアは世界各地の美術館やアートギャラリーで個展を開いている。小さいときからアートを学んでいたが、大学では経済学を専攻し、その後しばらくは多国籍企業で働いていた。余談だが、現代の優れた写真家やアーティストにはこの手のパターンが多い。

作品ごとにスタイルは異なるが、アナクロニズム(時代遅れ性)とジャクスタポジション(対立する2つの要素を並列すること。通常は別々に表すが、レッシアの場合、1つの写真の中でそれを行っている)は彼女が多用する大切な構成要素、あるいはテクニックだ。

例えば、「How would have been?」シリーズ。モデルはヴィクトリア朝のドレスで着飾っているが、そのシリーズの1枚にははっきりと歯の矯正器具(ブラスワイヤー)が見られる(下写真)。そこには古典と現代の対比、そして時空を超えて共通する脅迫観念がある。先述した人間のオブセッション、美へのオブセッションが強烈に表現されているのである。

スポーツ・ユニフォームをモデルに着せた「The Champions」シリーズも、ジャクスタポジションを使用したオブセッションへの探求だ。モデルにスポーツ・ユニフォームを着させているが、もちろんスポーツが焦点ではない。レッシアの言葉を借りれば、「栄光とか成功」で人を判断しがちな現代社会に対する問題提起である。

【参考記事】どこか不可思議な、動物と少女のポートレート

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米貿易赤字、3月は0.1%減の694億ドル 輸出入

ワールド

ウクライナ戦争すぐに終結の公算小さい=米国家情報長

ワールド

ロシア、北朝鮮に石油精製品を輸出 制裁違反の規模か

ワールド

OPECプラス、減産延長の可能性 正式協議はまだ=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    「みっともない!」 中東を訪問したプーチンとドイツ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story