コラム

日本経済低迷の主因である「空洞化」をなぜ総選挙で議論しないのか

2026年02月04日(水)14時15分

ですが、現地生産化を進めれば国内は空洞化します。雇用は失われ、設備投資も消え、生産による価値の創造も流出するからです。この空洞化に対する対策はズバリ「より付加価値の高い産業にシフト」することです。昭和の日本経済は自転車を台湾に渡して、造船に集中し、今度は造船を韓国に渡すと自動車にシフトするという順番で、輸送用機器産業の空洞化を防いできました。自動車の空洞化が避けられないのであれば、今度は宇宙航空に全面的にシフトすべきですが、全く上手くいっていません。

空洞化ということでは、資本の流出も激しいです。人口減で市場が縮小する食品や飲料の企業は、21世紀に入ると世界のメーカーを買収にかかりました。市場が縮小しない世界で売上を確保するためです。そうした国外での業績は企業の決算にはプラスされますが、日本国内の雇用やGDPには全く貢献しません。同じカネが国内で最先端産業に投資されていれば全く違った結果になっていたと思われます。


空洞化の弊害として大きいのは、技術の流出です。エレクトロニクス産業が丸ごと中国やアジアに移ったのは、生産拠点を移したことで技術も流出したからです。彼らが知財を盗んだのではありません。お人好しにも現地で人材を育成して、国内ではしなかった結果、自然にそうなったのです。結果的に国の生産性も競争力も消えてしまいました。

いずれにしても、国内を空洞化させつつ多くの日本企業は多国籍化しています。そして売上も利益も国外から来ます。儲けたカネは海外で再投資されます。反対に国内はどんどん貧しくなります。そして国内が弱くなれば円が安くなりますが、海外で儲けたカネは円安になると膨張します。ドルベースで形成された株価も円では高くなります。財界が円安を歓迎するのは、輸出で儲かるからではなく、決算数字が円に換算すると膨張するからなのです。

日本企業の海外での成功はGDPに寄与しない

外国人への嫌悪感を、日本発の多国籍企業に向けろという話ではありません。そうではなくて、空洞化があまりにも徹底しており、あまりにもスピードが早かったのが問題なのです。もう少しペースを緩和することは可能だったはずです。

何よりも、意識として国内経済を充実しないと国が滅びるということを認識するべきです。例えば、トヨタの世界での生産台数が世界一になったとか、川崎重工や日立が外国で大規模な鉄道車両の受注に成功したというニュースは、漠然と「嬉しい話題」という扱いになっています。確かに誇らしいですが、そのことが日本のGDPには貢献しないという認識が完全に欠落しているのは問題です。ちなみに、鉄道は公共事業なので官営にしても民営にしても、外国ブランドに車両の注文を出す場合には現地生産が義務付けられるのが普通です。

経済メディアの扱いも問題です。経済専門メディアだけでなく、テレビなどでも経済ニュースでの扱いは同じで、「日本経済=日本企業の業績の全体」みたいに思っている、これは間違いです。海外に流出した部分は日本の雇用にもGDPにも直接は反映しないのです。

原因はハッキリしています。大手の企業の多くは多国籍化しており、そこで働く社員にとっては海外も含めた自分の会社の業績が良ければいいのです。そして、そのような社員のほとんどは終身雇用であり、仮に日本のGDPがさらに一段と縮小したとしても、直ちに自分の雇用が脅かされることはないからです。そうした人々の間で今ひとつ危機感が薄いのはこのためです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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