コラム

参院選から見える日本の民主主義の3つの危機

2019年07月11日(木)16時00分

選択肢がなくなれば本当に民主主義は停滞してしまう Issei Kato-REUTERS

<与野党の対立軸が見えない、政権イメージと政策が一致しない......日本政治には民主主義を停滞させる問題が根付いている>

新聞やジャーナリズムがよく使う言葉に「民主主義の危機」というフレーズがあります。具体的には、政権が強権発動をして独裁的になる場合、あるいは選挙の投票率が低迷して選挙結果の権威が揺らぐ場合などに「発動」される言い方です。

ですが、言葉そのものが陳腐化していて、危機だ危機だと言っても危機感の共有にならない現実もあります。一方で、そうした「言葉にまとわりついた手垢」を洗い落として考えてみると、今回の参院選においては、どこか「民主主義の危機」を危惧させるモヤモヤした感覚が否定できません。

この感覚ですが、表層にあるのはまず政党選びの難しさだと思います。

「長期化した政権には飽きたし、経済や人口問題など将来への不安からすると、参院だけでも与党にお灸を据えたい。けれども、野党の方はバラバラだし、統治能力が感じられないので投票する気になれない」

という感覚は、おそらく多くの有権者に共有されているのではないかと思うのです。結果として、投票率が低迷するようなら、確かにメディアの常套句である「民主主義の危機」という表現が出てきそうです。

ですが、危機だと叫ぶだけでは、問題の解決にはなりません。また、限られた選択肢の中で、何も選択できないことが続けば、それこそ本当に民主主義は停滞してしまいます。

何を対立軸にすればいいのか?

そこで議論を先へ進めるには、危機の中身を整理してみることが必要ではないでしょうか? 今回は3点、問題提起をしてみたいと思います。

1点目は対立軸の問題です。リベラル対保守であるとか、大きな政府論対小さな政府論というのは、どうも日本の政治風土には馴染まないのかもしれません。少なくとも二大勢力を選択肢とする際に有効な軸にはならないようです。そうであるなら、もっと具体的な対立軸を考えることが必要でしょう。

「都市への集中を許すのか、強制力を使ってでも地方経済を浮揚するのか」
「現役世代へのリターンを増やすのか、年金受給世代の数の力に乗るのか」
「多国籍企業の活動を許すのか、それとも日本のGDPを優先して高付加価値部分の空洞化には歯止めをかけるのか」

といった対立軸は、財政規律とか格差への再分配などと並んで大切な政治的課題になり得るのではないでしょうか。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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