コラム

安倍政権の攻めの対米外交は自主防衛拡大への布石なのか?

2016年12月08日(木)15時45分

 そうかもしれません。ですが、別の可能性もあります。それは、安倍首相は今回のアメリカの政権交代を機に「在日米軍のプレゼンスを軽減し、日本の自主防衛を拡大する」方向へ大きく舵を取りたい、そのためにこの政権交代期に積極的な外交攻勢を仕掛けている、そんな可能性です。

 証拠はありません。ですが、一連の対米積極外交を状況証拠として考えると、妙に辻褄が合うのです。

 まず、当選直後のトランプに対しては「日本への防衛費負担要求は当然」だと受け入れて、「そのためにも自主防衛比率を高めるし、双務性も担う」と述べたのであれば、相手は大歓迎したでしょう。

 次に真珠湾献花というのは、「在日米軍は日本軍国主義復活へのビンのフタ」という理論に対して、日米が究極の和解をすることで、日本の再軍備加速が「決してアメリカへの挑戦ではない」ことを政権同士、そして両国世論に向けてアピールするという意味を持たせることも可能です。

 真珠湾訪問に際して、どうして「退任直前」のオバマ大統領との首脳会談をするのかというと、もしかしたらこの点、つまり日本の自主防衛比率の向上に関して、アメリカ民主党全体への「根回し」という目的がある可能性もあります。

【参考記事】安倍トランプ会談、トランプは本当に「信頼できる指導者」か

 民主党は、そもそも第2次大戦を日本相手に戦った党であり、また日本における歴史修正主義には批判的な党です。ですから、議会民主党には「第2次大戦における日本のマイナスのレガシー」を強く意識する人物もいます。そうしたグループへの「押さえ」として、この「退任直前のオバマ」とのハワイ会談をセットしたという可能性を見ることは可能だと思います。

 以上では足りずに、就任直後の早期にトランプ氏との会談をセットしようとしているのも、例えば「2月の一般教書演説」に日米同盟について入れてもらうための根回しという意味合いもあるかもしれません。

 仮にそうだとして、「アメリカの同意」を取り付けた上で、憲法9条改正、そして自衛隊による自主防衛比率のアップと、在日米軍のプレゼンス軽減ということに踏み込む、そんなシナリオがあるのではないか、これはあくまで仮定の話ですが、この政権交代期の積極外交には、そのような文脈でもなければ説明のつかない「不自然さ」を感じます。

 もちろん、真珠湾献花というのは立派なことで、英断だと思います。大いに結構だと思いますし、首相は是非行くべきだと思います。ですが、仮にこうした意図があるのであれば、それはまったくの別問題になります。

 何が問題なのでしょう?

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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