コラム

トランプ、強硬保守とソフト路線の「バランス戦略」は成功するのか

2016年11月24日(木)17時00分

 ですが、同時に決定した教育長官のベッツィー・デボスという女性は、かなり異なったキャラクターの人物です。まず、この人は「チャーター・スクール」とか「スクール・バウチャー」の強烈な推進派です。つまり、公費による一律公教育に反対し、宗教的な理由などの「独自の教育」を認め、その上で公費による「独自の教育への助成」を推進するという運動をしているのです。

 またデボス氏の夫は、有名な生活用品の販売会社「アムウェイ」の創業家であり、実際に同社の経営を担ったこともある人物で、要するにトランプ一家以上の資産家です。そうした経済力を背景に、「全国一律の統一カリキュラム反対」とか「一律の性教育反対・人権教育反対」などの旗を振って、教職員組合から目の敵にされていた人物です。

 つまりこのデボス氏の起用は、決して「ソフト路線」とは言えないと思います。デボス氏の場合は、元々のトランプ支持者ではありませんが、共和党の主流の中でも強硬な保守主義を代表する人物で、この人事も「強硬な保守派路線」のカテゴリに入るでしょう。

【参考記事】「トランプ大統領」を喜ぶ中国政府に落とし穴が

 そう考えると、首席補佐官に共和党主流派のプリーバス、首席戦略補佐官に「オルタナ保守サイト主宰」のバノンという対照的な人物を配置したことに始まり、とにかく様々な形で「バランス」を考慮した人事が続いているのは確かです。

 それはそれで悪いことではないように思いますが、問題は「では、トランプ政権は一言で言えば何を目指しているのか?」と言うことが、こうしたバランス人事では見えてこないことです。

 さらに言えば、今回のニューヨーク・タイムズのインタビューに見られるように、リベラルな媒体に対しては「ソフト路線」になるが、相手が保守であれば、今度はそれに迎合して発言が「過激」になるという、その場の空気に応じた「態度の使い分け」をしているのではないかという見方もできます。

 悪い意味でのビジネス的な手法で、そんなことを続けていれば、大統領就任以降は「言行不一致」あるいは「言動に一貫性なし」ということで、たちまち政権運営が立ち往生することにもなりかねません。今の政権移行チームが進めている「バランス人事」「発言のバランス感覚」は、就任以降にはあらためてスタイルを変更する必要が出てくるのではないでしょうか。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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