コラム

「予備選」が導入できない日本政治の残念な現状

2016年02月02日(火)17時15分

 日本では、かなりハッキリした「現職優先」という考え方があります。アメリカでも大統領選では「2期目を目指す現職」は優先されるのでほぼ無風選挙になりますが、議員の場合はそうではありません。現職であっても、毎回の選挙で党内の対立候補の挑戦を受け続ける、その中で民意との乖離を埋めていくのです。ところが、日本の場合は現職がまず優先されるので、民意と離れていても当選回数を重ねていくという弊害があります。

 二大政党といっても、中には右から左というバラエティ、つまり多様性があるわけです。その政党の中で、例えばある選挙区でどの候補を立てるのかというのは、選挙区の特性もあれば、時代背景も作用するわけです。多様性の中から予備選で候補を選べば、その政治的な立ち位置と民意が一致していくという効果も期待できるでしょう。

 というわけで、できれば実施したい予備選なのですが、実際に日本で導入となると難しさがあります。

 まず野党の場合は、「小選挙区制なのに一つの政党に一本化されていない」という状況です。ということは、乱立することもあるし、仮に野党で一本化するとしても、どこにどの政党の候補を立てるのかは、「勝てる可能性」と「党首間のボス交渉」で決まることになりそうです。ということは、予備選制度などという透明性は期待すべくもありません。

【参考記事】バス事故頻発の背景にある「日本式」規制緩和の欠陥

 与党の特に自民党の場合も妙なことになっています。昔の自民党は色々と批判はあったものの派閥というものがあり、派閥ごとにイデオロギーや政策の差異が気風として存在していました。例えば清和会は親台派で共和党フレンドリーだとか、木曜クラブは経済成長重視で親中だとか、宏池会は財閥に近い一方で軽武装の現実主義だとか、色々あったわけです。

 ですが、今の派閥にはそうしたハッキリした色の違いはないばかりか、肝心の経済政策と安保政策に関しては、政治家が民意の顔色をうかがっていて一貫性を示せていないのです。ですから、どの派閥にもバラマキ派と、右派ナショナリストが潜んでいるという情けないことになっています。つまり、派閥名とイデオロギー、政策のマトリックスが描けないのです。

 さらに、政権中枢との差異をしっかり打ち出す政治家や派閥が少ない中で、現行路線と心中するコースに多くの政治家が乗ってしまっています。これでは、健全な大与党としての多様性も何もあったものではありません。まして、予備選などできる環境にはないと言えます。

 そんなわけで、日本の候補者選定の現状については弊害がいくらでも指摘できる一方で、予備選が導入できる環境には与野党ともにないのです。残念ですがこれが、日本の政治風土の現状だと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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