コラム

黒人青年射殺事件「不起訴」の衝撃

2014年11月25日(火)13時04分

 こうした中で、地区検事から不起訴の発表があったわけです。検事のコメントは、30分以上にわたっており、事件の詳細から捜査の過程、審議の過程を説明しながら、SNSによる様々な意見の拡散、そして常にニュースに飢えている「24時間ニュース局」に対しても批判を行い、目撃者の証言がクルクル変わったなどの事情にも混乱の責任の一端があるという批判を加えていました。

 極めて異例な発表と言わざるをえませんが、不起訴という発表を受けて、検事局前に詰めかけていた群衆は早速抗議デモをスタートさせています。同時にニューヨーク市でも抗議行動が始まりました。発表直後の時点では、とりあえず抗議行動は平和裡に行われているようです。

 この事件、問題は人種の偏見ということよりも、アメリカ社会に銃が溢れていることを前提に、警官は身の危険を感じたら相手を射殺して良いという法制や慣行が定着してしまっていることに根本的な問題があるように思います。ですが、そうした見解はアメリカのメディアではほとんど見られません。

 オバマ大統領は、今回ローカルな事件であるにもかかわらず、人種対立の激化を恐れて連邦司法省を動かし、ホルダー司法長官を現地に派遣すると共にFBIを投入し、政府として色々な努力をしたことは事実です。

 最終的に不起訴という決定を受けて、オバマは緊急会見をしています。自分の権威が低下していることをふまえて、「ブラウン氏の両親の思いを無駄にするな」というあくまで遺族の意向を前面に出しながらの声明には明らかに苦渋がにじんでいました。

 オバマは「決定への怒りは理解できる」としながら「行動はあくまで非暴力で」と訴えていました。もちろん大統領ですから、警察当局の努力も評価しつつ、その一方で地域の警察と有色人種コミュニティーの間に正常な信頼関係が築けていないことを指摘し、とにかく今回の事件を受けて前向きの和解を呼びかける内容でした。

 オバマは、途中から原稿から目を離してアドリブで必死に訴え、質問にも少しだけ答えるなど誠実な姿勢を見せましたが、カリスマ性の喪失は明らかでした。まさにその会見の最中に、デモ隊は警察車両をひっくり返そうという挑発行為に走り、それを契機に警察は催涙弾の使用を開始しています。銃声が聞こえたという報道もあります。オバマの言う「非暴力」を果たして保っていけるのか、これも大統領の威信を左右することになります。

 ファーガソンでは、まだまだ目が離せない状況が続きそうです。 

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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