コラム

ネット規制解禁の前に「公示期間」という制度を再考すべきでは?

2012年12月05日(水)12時18分

 今回の衆院選では、改めてネットを使った選挙運動の早期解禁が求められているわけですが、日本の公職選挙法にある規制のおかげで選挙運動が形式化し、本質的な政策論議の「情報としての流通」が阻害されているという問題は、ネットの問題だけではないように思われます。

 1つ問題提起をしたいのですが、日本の公職選挙法にある「公示期間」という制度については、根本から見直すべきと思うのです。

 例えばテレビ番組における政策論議ですが、公示期間に入ると急に白熱した議論は消えてしまいます。というのは、特定の候補への投票を呼びかけるような行為は規制されているからです。ですが、政策論議というのは投票日に向けて、反対に盛り上がるべきだと思うのです。

 有権者の関心も高まる時期ですし、候補者以外のオピニオンリーダー、あるいは政治記者などによる真剣な議論は、投票行動決定にたいへんに有益だと思います。

 また候補者本人についても、より真剣になった有権者の視線に耐えうる議論ができるかどうかを見せるということは、候補者の実力を判定する上で重要な要素です。形骸化した政見放送ではなく、しっかりした司会者によるディベートを行い、更には中立的な有権者からの質問に対して各候補がアドリブで答えるなど、候補者の実力がハッキリ分かる制度にすべきと思います。

 今回もそうですが、現状では公示期間の前であれば、記者クラブ主催の党首討論があったり、ネット動画での討論があったりするのですが、こうした有権者にとって有益な情報提供が「公示前なら許され、公示後は許されない」というのは本末転倒であると思います。

 逆に、公示後に許されるのは街頭演説であったり、選挙カーによる遊説です。まるで「その下は真っ黒に汚れていますよ」と言わんばかりに白手袋をして候補者が握手をして回ったり、ほとんど騒音としか言えないような宣伝カーの連呼がされるわけです。

 その宣伝カーからは「よろしくお願いします」などという「自分は有権者の意見の代理人」という代議制民主主義の本質とは何も関係ない「私は議員になりたいです」という露骨な言い方が繰り返されるのです。

 こうした無意味な現象も、各候補者が資質として古いというよりも、公示後は「そのくらいしかできない」という制度のバカバカしさから来ているように思われます。

 これでは、選挙の公示がされると、まるで総務省の中央選管を頂点とした全国の選管が「以降は形式的な言動に終始して無難に投票日まで我々の監督下でおとなしくしていなさい」というような暫定的な権力行使をしているかのようです。

 いかにも官僚主導国家ということになりますが、これも本来であれば選挙戦終盤という時期こそ、有権者が持てる権力を最大に使って自分たちにとって適切な投票行動を行うための「有権者が最優先」である時期であるべきなのです。

 それ以前の問題として、公示などという「古色蒼然とした」制度は止めて、単に立候補の届出期間を決め、その前後での政治活動、選挙運動に関しては、他陣営への妨害行為や、選挙資金の不正などを取り締まる他は、一貫して自由にすべきと思います。

 とにかく、候補者本人も記者や専門家も、投票日のギリギリまでテレビや新聞、雑誌などの媒体で自由な意見表明を可能にすべきと思います。その結果として出てくる最新のフレッシュな情報こそが、候補者の能力や資質や政策についての有益な判断材料となるのです。

 特に今回の選挙では、公示直前に結成された政党が多く、専門家や有権者との間での十分な意見交換ができていないケースが多いのが特徴です。このまま公示期間の規制に従って投票日まで行ってしまうというのでは、投票行動を決定するためのコミュニケーションの質と量が何とも不十分と思うのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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