コラム

日本の対立軸にはどうして「経済合理性+国際協調」という選択肢がないのか?

2012年12月03日(月)13時05分

 今回の衆院選は、多数の政党が登場しています。勿論、乱立だとか混乱だという形容は当たっているのですが、少なくとも選択肢は増えたというメリットはありそうです。ところが、どうしたものか21世紀の現在において、最も重要で現実的だと思われる選択肢が見事に欠落しているのも事実です。

 それは「経済合理性と国際協調を同時に重視する」という立場です。

 この選択肢がないのです。例えば今回の党首討論でもニコニコ動画では10、記者クラブ主催のものでは11も政党があるのに、見事なまでにない。これは本当に困ります。例を挙げればキリがありませんが、

----安倍自民党は軍事外交では親米で、ビジネスにはフレンドリーなのかもしれませんが、靖国参拝とか国防軍といった右派イデオロギーがどうしてもセット定食で付いてくるわけです。これでは、自由世界での友人を作るといっても大きな限界があります。

----野田民主党は、その点ではやや現実に寄っていますが、郵政逆改革とか一部のバラマキ政策など、どう考えても経済合理性を理解していない政策が混じっています。

ーー維新は、公務員改革や教育におけるパフォーマンス追求、つまり厳しい21世紀の国際社会の中で競争力を持つ格差に負けない子供を育てようという原点は素晴らしいと思うのですが、組合との力関係のゲームの中で右派的なイデオロギーを求心力に使っているうちに、国際協調や経済合理性の感覚が「抜本的に」欠落したグループとの合同に至っています。

ーーみんなの党に関しては、小さな政府論と経済合理性への理解は相当にあり、それが都市票の一部に評価されたわけですが、軍事外交においては最初から右派カルチャーのカテゴリから出ることはありませんでした。

ーーその他のグループについては、反グローバリズム、反経済合理性というまるでヨーロッパなどの「自分さがし」の若者や、ギリシャの左翼、イスラム圏の原理主義運動と同じような、21世紀の世界の現実へ向き合うことを拒否した内向き志向が核にあるわけです。いや、それよりももっとタチの悪い、既得権益の利害代表という側面もそれぞれに持ち合わせているわけです。

 とにかく、問題の核にあるのは1つの「ねじれ」と言いますか矛盾ということです。

 少なくとも社会主義の信奉者とか既得権益代表ではなく、経済合理性を理解しているグループ、少なくとも日本の経済全体が成長して行かなくてはならないということを理解しているグループが、どうして軍事外交に関しては、21世紀の世界では全く通用しない閉鎖的な孤立主義イデオロギーを抱え込んでいるのでしょうか?

 マネタリーポリシーや、GDP、プライマリーバランスといった国家運営における重要な概念を「少なくとも重要だと分かっている」グループに限って、どうして「40年代のナチスとの提携による南進政策」を正当化したり「慰安婦問題では強制連行はなかった、その代わり人身売買はあった、この点をどうぞ誤解なきよう訂正をお願いしたい」などという、日本を一歩外に出れば「100%日本のイメージダウンになる」ようなキャンペーンに執着するのでしょう。

 この矛盾を抱えているからこそ、中国に対して「国際ルールに従え」というメッセージを経済的な「ウィン、ウィン」の関係の中で一貫させることができないのです。また自衛隊のほとんどの戦略戦術をアメリカ軍との統合化されたシステムとして確立しておきながら「アメリカに切り捨てられるのが怖い」などという不安を抱えることにもなるわけです。

 以下は全くの仮説です。恐らく本質からは少しずれているのかもしれません。ですが、議論の叩き台として提案させていただきます。

 一つは、日本の「国家観」に根本的な誤解があるということです。ポツダム宣言において日本の「国体=国のかたち」は護持されたわけで、その護持され、長い歴史の中で一貫性を持っている「国体」を求心力として戦後の経済復興があった、そうした感覚を現在の政治経済の指導層は持っているのだと思います。私はそのことには異議は申しません。

 ですが、そうした指導層を含む官民の努力で、日本は平和国家としての大変に高い信用を国際社会から得ているわけです。その結果として「国体における問題点は修復された」つまり、長い日本という国の歴史における一貫性は確保しつつ、ナチスと結び、アジアでの対等な連携作りに失敗したために起きた「国体の傷」は修復されたと考えられるわけです。日本の歴史は特に日本の「アイデンティティ」として一貫してはいるが、明らかに直すべき傷を作ってしまった、だがその傷は正当な努力により修復されたということです。

 この観点が欠落しているために、例えば外交とか経済的な国際提携、あるいは企業活動の国際的な展開などを進めていく中で、「日本人としての誇り」を持とうとすると、誤っていた過去まで全部正当化しないとダメという悲愴感漂う話になってしまうわけです。それこそ、韓国統監府の民心獲得失敗にしても、中国での居留民保護が全面戦争に発展した陸軍の大失態にしても、近衛・東条政権によるナチスとの提携による南進策にしても、「一貫した日本として何もかも正当化しなくてはダメ」だと思い詰めてしまうのでしょう。

 もう1つは、日本の国際協調主義はどちらかと言えば「左派の縄張り」だったということがあります。環境であるとか、反戦平和であるというジャンルの話が好きで、市場経済や自由競争といったものには、直感的な抵抗を示しつつ、言論界や学界では多数派的な権力を行使してきたグループがあるわけです。そのために、これに反対しようとすると、自動的に「経済合理性+孤立主義」になってしまうという対立のメカニズムは、それこそ大阪の維新ではありませんが、今でもあるわけです。

 経済合理性と自由世界での国際協調主義ということでは、戦後の長い間、池田=大平=宮澤というような自民党の宏池会の系譜や、民社党=同盟の路線にはそうした「自覚」は少なくともあったように思います。ですが、宏池会は集合離散の結果によって弱体化しましたし、民社党=同盟に関しては、そのルーツである「河井栄治郎から猪木正道まで」といった鋭利な知性を忘れて体制の補完機能に専念した結果、消滅したということが言えるのかもしれません。

 いずれにしても、経済合理性を信じつつ、そのテクニカルな政策論の精度を上げていこう、同時に資源のない日本は国際協調路線こそ繁栄を維持していく唯一の選択肢だということをもっと深く覚悟して行こう、今回の衆院選では、こうした立場が少しでも広がることを願わざるを得ません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)、『アメリカモデルの終焉』(東洋経済新報社)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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