VOICES コラム&ブログ
BLOG ブログ

プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

米ジョージア州「ヴォーグル原発」増設認可の背景

2012年02月13日(月)12時29分
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

印刷

 先週木曜日、2月9日に米国のNRC(原子力規制委員会)は、ジョージア州のヴォーグル原発における原子炉2基の増設を認可しました。このニュースに関しては、様々な議論が可能と思いますが、そのための論点を整理しておきたいと思います。

 まずこのヴォーグル原発ですが、既に2基が稼動しており、今回の認可はその3号機と4号機の追加が許可されたということになります。スリーマイル島原発事故(1979年)以降は凍結がされていた新規の原子炉の認可が今回初めて下りたというのは事実ですが、新たな原子力発電所が増設されたのではありません。

 では、福島第一の事故を受けてという状況の中での今回の認可については、どのように評価が可能かといえば、まず政治的な背景としてはオバマのエネルギー政策との関連で考えるべきだと思います。

 福島の事故の直前には、この新規の2基に関しては認可の直前まで行っていたのですが、日本の事故を受けてNRCは認可を一旦棚上げにして再検討をする動きもあったわけです。ですが、結果的に比較的早期の認可となったというのにはオバマ政権として、自身のエネルギー政策を堅持したいという思いがあると見るべきです。オバマ政権のエネルギー政策というのは、3つの特色があります。(1)エネルギーの多様化促進、(2)温暖化理論に基づく排出ガスの低減(3)エネルギー産業の競争力拡大、という3つです。

 今回のヴォーグル3号機・4号機の認可というのは、まず(1)と(2)の方針から導かれたものと言えます。例えば、オバマはカナダからルイジアナへとアメリカを縦断するパイプラインの敷設に反対しており推進派の共和党と真っ向から対立しています。これはオバマとして環境問題への懸念もあるでしょうが、何よりも化石エネルギー依存率を抑制したいという政策が背景にあるわけです。原発の認可に関してはその派生として、1つの手段としての決定ということだと思います。

 もう1つ今回の2つの炉というのは、(3)にある競争力拡大の観点からの判断であるとも言えます。実はこの2基に関しては東芝の子会社であるウェスティングハウス社による「第3プラス世代加圧水炉AP1000」で決定しており、今回の認可は、この新世代炉を米国として正式に認知したことになるわけです。NRCとしては、このAP1000モデルに、2011年12月末に最終的な型式認可をしているからです。

 この新世代炉の特徴は、受動安全性、つまり今回の福島第一のように「電力を必要とする複雑な冷却システム」ではなく「循環や蒸発という物質の自然な動作の過程で自然に冷却し、停止する」安全性を前提に設計されているという点であり、今回の認可はこのAP1000が米国の競争力拡大に寄与するという判断を含んでいると思われます。これに加えて、AP1000が一基当たりの発電能力が110万キロワットというエネルギーの安定供給の上で無視できない大規模なものだということもあります。

 では、福島の事故という大きな事件があったにも関わらずアメリカがAP1000を認めたという意味はどう考えたらいいのでしょうか。これは、福島の事故が老朽化炉の問題を露呈したから、オバマ政権が政策として掲げてきた「より安全な新世代炉への置き換え」は進めようということ、政策としてはそうしたことになります。

 特に、福島第一は格納容器が劣化して破損したとか、老朽化した配管が破損して大事故になったというのではなく、全電源喪失時の冷温停止に失敗したというのが事故の本質です。この点でも、正にAP1000の場合は全電源喪失という最悪の事態でも格納容器内で大量の冷却水を循環させて自然冷却するということを目的に設計がされているわけで、福島第一の惨事を予見したかのような設計として評価が可能という観点もあったと思われます。

 では、このAP1000が事実上は東芝の子会社によって開発されたという点は、アメリカでは特に問題視する声はありません。経営権が日本の会社にあろうと、日本の会社との技術協力によるものであろうと、アメリカのエネルギー多様化技術の競争力向上に寄与することということを疑うことないということ、またそのパートナーである日本が「事故を起こした国」だと問題視する声も聞こえてはきません。

 一方で、今回の認可決定とは逆に、北部のニューヨーク州にある「インディアンポイント原発」では、来年の2013年に稼働40年を迎える炉について、認可の延長ではなく廃炉の議論が進んでいます。まるで、南部では原発推進、北部では廃炉というコントラストがあるようですが、この問題もむしろそうではなく、老朽炉は廃炉として新世代炉に置き換えるという全国レベルでのオバマのエネルギー政策に沿うもの、そうした観点で見るべきだと思います。

 いずれにしても、AP1000という新世代炉の実用化にアメリカは一歩を踏み出しました。ヴォーグル原発以外にも具体的な計画は米国内では6カ所に及んでいます。更に各国へも様々な影響を与えることと思われます。例えば中国はこの新世代炉を6基擁する大型の発電所を浙江省の三門に建設中です。福島の事故を受けて工事は一時中断されたものの、その後は当初計画を前倒しにして建設が進んでいます。更に山東省海陽市の海陽原発では、同型機を最終的には8基という規模の大きなプロジェクトも進んでいるのです。こちらの建設も進んでいくことでしょう。

 日本で、原発輸出の是非の論議があるのも承知していますが、例えばトルコやベトナムとの商談もこのAP1000を前提として進められているのです。このAP1000ですが、全電源喪失時の受動安全性を中心とした性能が本当に確保されているのかは、世界のエネルギー需給に大きな影響を与えるという観点から、今後も慎重に見てゆく必要があるように思います。

最新ニュース

ワールド

南シナ海の哨戒活動、自衛隊に期待=米第7艦隊司令官

2015.01.31

ビジネス

ドル高、米労働市場にプラスの効果=ダラス連銀総裁

2015.01.31

ビジネス

米OSI、中国期限切れ食肉問題で数億ドル失う

2015.01.31

ビジネス

米政権はTPP交渉で為替操作禁止要求すべき=上院財政委員長

2015.01.31

新着

米大統領選

出馬表明を渋りつつ、出る気満々のヒラリー

世論調査で圧倒的な人気を誇り、党内の有力者も自陣営に引き入れて準備は整いつつある [2015.1.27号掲載]

2015.01.30
イエメン

石油危機とテロ拡大を招くイエメン政局の混迷 

経済基盤である石油貿易を崩壊させ、スンニ派系アルカイダ組織も利する最悪のクーデター [2015.2. 3号掲載]

2015.01.30
アメリカ社会

サブプライム自動車ローン急増の背景にある格差

焦げ付く心配なしとみて、ウォール街が信用度の低い借り手に高金利ローンを貸し付ける矛盾 

2015.01.29
ページトップへ

Recommended

BLOGGER'S PROFILE

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)、『アメリカモデルの終焉』(東洋経済新報社)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

MAGAZINE

特集:「イスラム国」残虐性の原点と実態

2015-2・ 3号(1/27発売)

日本人2人を人質に身代金を要求した「イスラム国」
暴力で世界を戦慄させる過激集団の知られざる原点と行く末

  • 最新号の目次
  • 予約購読お申し込み
  • デジタル版
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

人気ランキング (ジャンル別)

  • 最新記事
  • コラム&ブログ
  • 最新ニュース
  1. 1

    アルカイダは「ISISを容認せず」

    アルカイダ系で最大の組織の指導者が、斬首の撮影…

  2. 2

    原油暴落でイスラム原理主義のヒズボラが破産?

    レバノンを支配する過激派に思わぬ大ピンチ。イラ…

  3. 3

    超リッチ層の富の独占が止まらない!

    世界の上位1%の最富裕層が世界の富の半分以上を…

  4. 4

    日韓よ中国を利する歴史論争から脱け出せ

    ナショナリズムをあおるような対立をこのまま続け…

  5. 5

    コバニ奪還で揺らぐ「イスラム国」の支配

    国籍を越えて団結したクルド人と「有志連合」の空…

  6. 6

    7兆ドルをどぶに捨てた中国に明日はあるか

    世界第2位の経済大国になった中国がこのままトン…

  7. 7

    聖戦を煽る「イスラム国」指導者が空爆で負傷?

    過去に報じられた負傷説や死亡説は本人が否定して…

  8. 8

    極左とネオナチを選んだギリシャの窮状

    厳しすぎる財政緊縮を強いれば、景気が悪くなるだ…

  9. 9

    残忍ISISの支配の実態は

    残虐非道で知られるISISが、混沌としていた地…

  10. 10

    ギリシャだけじゃない! 欧州で極左が大躍進

    経済危機を背景に各国で新世代の極左政党が人気を…

  1. 1

    このまま原発を止め続けると30兆円以上が失われる

    九州電力の川内原発(鹿児島県)の再稼動に地元…

  2. 2

    黒田総裁の「敗北宣言」で日銀は白川時代に戻った

    日本銀行が1月21日に公表した展望レポートの…

  3. 3

    レイプ写真を綿々とシェアするデジタル・ネイティブ世代の闇

    ここ最近、読んでいるだけで、腹の底から怒りと…

  4. 4

    安倍政権とアメリカ政治の「ねじれ」に危険性はあるか?

    日本国内での一般的な印象とは異なって、アメリ…

  5. 5

    郵便事業は今後も持続可能なのか?

    ヤマト運輸が扱っていた「メール便」というサー…

  6. 6

    間違い電話でわかった借金大国の悲しい現実

    ニューヨークに住み始めた僕は、まず携帯電話を手…

  7. 7

    嫌韓デモの現場で見た日本の底力

    今週のコラムニスト:レジス・アルノー 〔7月…

  8. 8

    「日本は5年で破綻」藤巻健史氏の警告に対しての「解」はあるのか?

    6月14日に米ブルームバーグが配信した藤巻健…

  9. 9

    オバマが「無料化」を提案したコミュニティ・カレッジとは?

    今週20日の晩にオバマ大統領は「年頭一般教書…

  10. 10

    嫌イスラームの再燃を恐れるイスラーム世界

    シャルリー・エブド誌襲撃事件は、世界を震撼さ…

  1. 1

    湯川遥菜氏が殺害されたとみられるビデオ投稿、言語道断の暴挙=官房長官

    菅義偉官房長官は25日午前零時10分から緊急…

  2. 2

    湯川さんとみられる殺害画像を投稿、安倍首相「許しがたい暴挙」

    「イスラム国」とみられる過激派組織に拘束され…

  3. 3

    イスラム国人質事件に関する安倍首相声明

    イスラム国による邦人人質事件に関する25日未…

  4. 4

    ドル高、米労働市場にプラスの効果=ダラス連銀総裁

    米ダラス地区連銀のフィッシャー総裁は30日、…

  5. 5

    湯川さん殺害「信ぴょう性高い」と安倍首相、後藤さん解放に全力

    過激派組織「イスラム国」がインターネット上に…

  6. 6

    後藤さんの妻が初めて声明、「これが最後のチャンス」

    イスラム国に拘束されているとみられる後藤健二…

  7. 7

    米情報当局、日本人人質の殺害を示す録音の真偽を検証中

    米情報当局は、イスラム国に拘束された日本人人…

  8. 8

    日産が人気車種含む76.8万台リコール、湿気などの問題で

    日産自動車は、「ローグ」「パスファインダー」…

  9. 9

    スカイマークが再生法申請、社長退任しファンド支援

    国内航空会社3位で経営不振に陥っていたスカイ…

  10. 10

    オバマ米大統領、「イスラム国」による日本人殺害を強く非難

    過激派「イスラム国」が拘束していた湯川遥菜さ…