コラム

「ウォール街占拠デモ」はどこまで本気なのか?

2011年10月05日(水)14時13分

 ここ数週間、ニューヨークのダウンタウンで続いている「Occupy Wall Street(ウォール街占拠デモ)」は、先週末にはブルックリン・ブリッジでの無許可行進をめぐって大量の逮捕者を出すと共に、ニュース・メディアに話題を提供した形になっています。一部の芸能人や、経済界でも例えばジョージ・ソロスなどはある種の理解をしているようですが、ウォール街の関係者とも言うべき多くの経済評論家は、デモに対して非常に冷淡です。

 いつもはアナーキーな「アブないオジサンのキャラ」で登場するジム・クレマー(CNBC)などは、今回のデモに関してはジョークを飛ばすどころか、3日の月曜には「奴らには何の主張もないんですよ。バカバカしいだけです。それにTVで取り上げると警察が悪玉で、逮捕された連中が善玉になっちゃうでしょ。報道で取り上げるのも問題ですよね」あるいは「強いて言えば、カイロの切羽詰まったデモというより、アテネのワガママなデモに近いのかもしれませんね」とバッサリ切り捨てていました。

 もっとも世代的にデモ隊に近いエリン・バーネットなどは、少しトーンが違いました。メイクを落とし、別人のような格好でデモの中に「潜入」したバーネットには、デモ隊の若者は気軽にインタビューに応じていたのですが、バーネットには「彼らがどこまで本気なのか分からない」ようでした。これは3日の月曜日の東部時間7時に始まった「アウトフロント」という新番組の第1回で、彼女のCNN復帰にあたり東部時間夜7時の1時間ニュースの単独MCに挑戦する、その最初のトピックにこの「占拠デモ」を取り上げていたのです。

 バーネットに言わせると「エジプトでムバラク政権が倒れる直前にデモ隊の中で取材していた時の緊張感を思い出すと、この占拠デモというのは全くのお遊び」だというのです。ただ、彼女の場合は、クレマーのように切り捨てるのではなく、彼等が何を言いたいのかをできるだけ理解しようという姿勢がありました。

 とにかく「ダンスに興じる若者、ピザの出前にかぶりついている人たち、ピクニック気分の子連れ、そして多くの人が高価なMacbookを持っているんです」とレポートしながら「このデモは一体何の意味があるのでしょうか?」と終始考え続けていたそうです。そんな中で、例えば、「右派の現状不満がティーパーティー運動になっていったように、こうしたデモを通じて左派のポピュリズムも具体的な政治勢力になっていくのでしょうか?」という可能性については懐疑的でした。

 バーネットは、20代の失業中の若者へのインタビューの中で、「皆さんは税金でウォール街を救済したことを怒っているようですが、あの公的資金は返済されて政府としては結局は黒字だったんですよ」と指摘していました。「えっそうなんですか?」と驚く若者の姿勢には、やはり「どこまで本気?」と疑わざるを得ない、番組はそんなトーンでまとめられていました。

 一つ指摘しておかねばならないのは、クレマーがバカバカしいと切り捨て、バーネットが結局のところ「どこまで本気なのか分からない」という感想に至ったこの「占拠デモ運動」は、いわゆる左派の文脈だけでは理解するのは難しいということです。

 確かにデモの応援にやってきた女優のスーザン・サランドンとか映画監督のマイケル・ムーアというのは、「ゴリゴリの左派」です。ですが、有名人が来たといって喜んでいる若者たちは必ずしもサランドンの人権感覚や、ムーアの国民皆保険への情熱に共感しているのではないようです。というのは、デモ隊のプラカードの中に時々登場する「ヒーロー」は、現在共和党の大統領候補として予備選レースで活躍中の「リバタリアン(政府極小主義者)」ロン・ポール議員だったりするからです。

 ロン・ポール議員がどうして若者に人気があるのかというと、連邦政府の極小化つまり「究極の小さな政府論」を説いているからだけではありません。究極の孤立主義、つまりイラク戦争、アフガン戦争の全面否定と即時撤兵を主張し、例えばブッシュ政権当時のイラク戦争遂行予算審議でも、共和党議員団中で一人だけ反対票を投じた「気骨」が若者に受けているのです。

 では、一部が共和党のリバタリアンに親近感を持っているとして、この「占拠デモ運動」は思想的に「ティーパーティー」と近い右派的なものなのかというと、やはり歴然とした違いがあります。まず「ティーパーティー」の主体は自営業者と非組合員の白人労働者です。彼等の怒りには「自分たちが払っている税金が自分たちのために使われていない」という一種の嫌税感が核にあるのです。

 一方で、「占拠デモ運動」の多くは納税をしていない若者ですから、税への嫌悪というのは強くありません。人種的な背景については、マイノリティ歓迎、多様性バンザイのリベラルカルチャーですから、白人中心の「ティーパーティー」とは全く違います。

 その怒りの方向ですが、「ティーパーティー」の場合は「福祉で食っている有色人種」や「違法にアメリカに来た不法移民」に向かいがちですが、「占拠デモ運動」の方は「税金で救済された金融界」や「不況にも関わらず儲けている富裕層」に向かっているわけです。

 更にその延長上には、「ティーパーティー」の場合は「格差是正のための税による所得移転には絶対反対」という立場、更には「年収1億円以上に対するオバマの増税案にも絶対反対」という立場になるわけで、一方の「占拠デモ」の方は「所得移転をどんどん進めて格差是正を」という主張になる、つまり政策的には180度対極にあるわけです。

 それでも「占拠デモ」のカルチャーは、世代的には古典的な組合左翼とは全く違います。また元来はオバマ支持層なのでしょうが、「結果を出していない」中で中道実務主義にシフトしたオバマには魅力を感じなくなっているのでしょう。リバタリアン的なものに惹かれている心理にはそんな背景が考えられます。

 所得移転を主張しながらリバタリアンに共感するというのは、かなりひどい矛盾なわけで、その辺がクレマーやバーネットなどの「大人」からは「バカバカしい」とか「本気なのか?」という疑問になるわけです。ですが、先進国の政府が金融政策も財政政策も使い果たしてしまう中、明確な政治不信が広がっている、そうした閉塞感へのリアクションとしては、ある種の必然だというのは間違いないでしょう。そうは言っても、それが具体的な政策の原点となるような「思想」の体裁を成してゆくのかどうかは、もう少し注視していかなければならないように思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)、『アメリカモデルの終焉』(東洋経済新報社)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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