コラム

今、世界と日本がウクライナ戦争終結を考えるべき理由

2022年10月05日(水)17時40分

ウクライナのゼレンスキー大統領はプーチン大統領と和平交渉はしないと言うが……(ロンドンの壁画)Henry Nicholls-REUTERS

<戦争を続けてもウクライナ領の「完全奪還」は難しそう......だとすれば「フランクリン式」に落としどころを検討してみては?>


何か難しい判断を迫られたときに「メリット・デメリット表」を作って吟味したことはありますか? 僕はかなり作るタイプ。 例えば、車を買うか否か? という判断なら、こんな表になる:

車を買うメリット デメリット
いつでも使える! 維持費が高い
荷物が運べる! 渋滞で遅刻しちゃうかも
モテる! 既婚者はモテても困る


実際に数年前、こういう表を作って検討して、車の購入をやめたこともある。今はいざというときはカーシェアリングを利用して、普段はバイクに乗っている。残念ながら、それでもモテちゃうんだけど。

実は、この意思決定プロセスはアメリカ建国の父の一人、ベンジャミン・フランクリンが発明したらしい。1772年に友達への手紙で披露したあと世界に広まり、大勢の人が大小さまざまな判断の過程に活かしているようだ。

あのチャールズ・ダーウィンも、結婚するかどうか検討したときに駆使したようだ。彼が挙げたポイントは:

結婚するメリット デメリット
子供を持てる 本を買う予算が減る
老後までの相棒ができる 義理の家族に会わないといけない
犬よりもましな遊び相手ができる 喧嘩をする


結局、ダーウィンはこのメリット・デメリット比較の結果、半年後に(犬よりもましな)女性と結婚して、10人もの子供をもうけ、死ぬまで一緒に過ごしたようだ。ちなみに、犬も結局、レトリバーやテリア、ポメラニアンなどたくさん飼った。一番有名なのはビーグルだけどね!(すみません。自然科学オタク向けのジョークです。ダーウィンが乗った船のはビーグル号だった)

ウクライナ問題に当てはめると?

ここまでは余談だ。なんでこの「メリット・デメリット表」の話をしたかというと、そろそろ、ウクライナ戦争の終結シナリオにおいて重要な判断が迫られるときが来るはず。ウクライナや(日本を含む)支援国のブレーンはこんな表を作成すると、それぞれの選択肢の要点が可視化でき、難しい判断に役立つだろう。

ということで、自称ブレーンの僕が作ってみた!
 
まず、現状を考えよう。ロシア軍はウクライナからの反撃にひるみ、一気に支配圏を削られた。一方ロシア国内でもインフレは14%を超え(8月時点)、石油価格が下がり、財政や経済が疲弊している。12月には西側諸国によるロシア産石油に上限価格を設ける新たな制裁の導入も待ち構えている。各地で反戦デモが活発化し、徴兵から免れようと海外へ逃げるロシア人が後を絶たない。プーチン政権の支持率も右肩下がり。さらに、国際社会からの孤立が進むなか、緩い支持を示してきた中国やインドが距離を置き始めた。つまり、ロシアは窮地に立たされている。

そこでウクライナ東南部の4州で「住民投票」という茶番劇を行い、その「結果」をうけ、4州の併合を決定した。ピカピカの「新領土」でもロシアは兵力の動員を行う可能性があり、またプーチンは核兵器の使用も辞さない姿勢を示している。

では、ウクライナにとっての「迫られる判断」とはなんでしょうか? プーチンはそろそろ「この辺にしといたる」と、負けながら偉そうに身を引く吉本新喜劇的な終わり方を提案すると、僕はみる。そこで、ウクライナは国土の一部を譲渡しても停戦・休戦を狙うか、それとも完全な領土奪還を目指して戦い続けるかという苦渋の選択をしないといけないことになる。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

カナダ首相、対ウクライナ25億ドル追加支援発表 ゼ

ワールド

金総書記、プーチン氏に新年メッセージ 朝ロ同盟を称

ワールド

タイとカンボジアが停戦で合意、72時間 紛争再燃に

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story