コラム

今、世界と日本がウクライナ戦争終結を考えるべき理由

2022年10月05日(水)17時40分

そもそも、考えられる戦争終結シナリオは、ウクライナの完全勝利、ロシアの完全勝利、妥協による停戦・休戦という3つしかない。最近、戦場での風向きが変わり、ウクライナ側が完全勝利まで戦い続ける士気が高まっているとみられるし、全世界でもそれを願う人が多いはず。だが、戦い続けることにともなう大きなリスクも考えないといけない。ハリウッド映画であればハッピーエンドになるが、実際の世界(と、なぜかフランス映画)ではアンハッピーエンドも多い。

ロシアへの妥協はどこかでなされるはずだ。今がそのタイミングか? それを考えるために、フランクリン一押しのメリット・デメリット表を作成してみた。もちろん、ウクライナを応援している1人として、ウクライナ目線で書いている。ロシア目線のものを望む方はニューズウィークロシア版を読んでください(ないです)。

最重要な点だけに絞って作ると表はこうなります:


領土の完全奪還まで戦う!

メリット デメリット
領土奪還できる(かも) 戦争長期化
侵略者が罰される(かも) 核兵器が使用される危険性
「勝利」したい国民の気持ちに答えられる 実現するか未知数


ここで妥協して停戦を目指す選択肢を中心に表を作ると、内容は一緒だが、見え方が少し変わる。

妥協し領土を譲渡する

メリット デメリット
戦争の早期終結 領土の譲渡(確実)
ロシアが賠償金を払う(かも) 侵略者が得をする
結果が確実(かも) 国民が納得しない


妥協すれば「模倣犯」の恐れも

表を見ていると分かるのが、これらメリット・デメリットを検討するなかで、それぞれの項目の重要性を考える必要があるということ。項目別に選択肢を並べて、軽く解説しよう。

領土奪還(実現度未知数)vs領土譲渡(確実)
 ・ロシアの占領地の人口は800万人(侵攻前の推計
 ・東部は工業が発展していて、石炭の埋蔵量も豊富。経済的価値が高い
 ・東部の都市マリウポリや南部のクリミア半島など黒海に面する地域は、漁業においても物流においても、安全保障においても要所である。

領土は、経済、安全保障、人口、資源などなど、多角的な意味で国力につながる。領土を失えば国力を失う。世界各地の領土問題でわかる通り、国民感情に半永久的に傷が残ることもある。

侵略者が罰されるvs侵略者が得をする 
 ・ロシアの侵攻は国連憲章にも反する不法行為
 ・ロシアに対し、国際社会が団結して対抗すれば、秩序を守る新しい規範の構築につながり得る

ここでの妥協はプーチンの暴挙が実を結ぶことになり得る。
軍事介入→「住民投票」→併合→「国土」を守るための核兵器使用の威嚇→休戦(国土拡大)
というテンプレートが出来上がり、ほかの大国による「模倣犯」を誘発する恐れもある(中国による台湾の強制的な統一など、みんなすでに思い浮かんでいたでしょ?)今後の力による現状変更を抑止するために、侵略軍を追い返す必要があるのではないか。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ベトナム国会議長、「違反行為」で辞任 国家主席解任

ビジネス

ANAHD、今期18%の営業減益予想 売上高は過去

ワールド

中国主席「中米はパートナーであるべき」、米国務長官

ビジネス

中国、自動車下取りに補助金 需要喚起へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story