コラム

トランプ元側近で「極右」のスティーブ・バノンに会ってきた!

2019年03月23日(土)14時00分


 
地球温暖化も「フェイクニュース」とするバノンは、正しい情報源として「ハートランド研究所の報告書を読みなさい」と勧める。確かに温暖化否定系の情報をたくさん出しているが、ハートランドは石油大手が中心的な出資者である規制反対派のシンクタンク。ほかには、トランプが新しく作る気候安全保障委員会の委員長になるウィリアム・ハッパーも権威に挙げる。

プリンストン大学の名誉教授(超エリート)で、気候変動の否定派として有名なハッパーは確かにすごい物理学者。だが、物理学者だ。気候学者ではないし、気候変動についての専門的な教育を受けたことがないという。彼が温暖化を否定するのは、「心臓病じゃないよ」と眼科医が診断するようなもの。それを聞いて安心するかな?

これは言い過ぎかもしれないが、僕だったらセカンドオピニオンがほしい。でも現在、温暖化を否定する主要な科学団体は一つもない。ハッパーと同じ診断をする「先生」はいなそうだ。

なんでバノンは嫌われているのかについては、これで大体答えがそろったと思う。

共和党主流派からみても、制御不能のアウトロー。本人も「共和党の伝統的な政策の多くに反対する」と、自覚している。自由貿易主義じゃない。ネオコン(新保守主義者)でもない。イラク戦争に反対。逆に累進課税には賛成。これじゃ、共和党には溶け込めないね。

民主党からみれば、自ら「右翼」と名乗ってトランプを大統領にさせたことが大きな要因だろう。政策課題においてはリベラルと同じような表現を使うこともあるが、仲間の言動から、バノンが進める「国家主義」は、自分が理想とする国家とは違うと感じる民主党員も多いはず。

メディアからみれば、大変やりづらいからかな。相手の姿勢に合わせようとしないし、相手のデータも情報源も質問の前提も専門家の見解も認めない。自分に有利なものしか共有しない。これでは対話が議論ではなく、突っ張り合いだけになりがちだ。

ただ取材を終えて、僕は正直、バノンが嫌いとは思わなかった。想像したほど恐ろしい化け物でもなかった。リップサービスだとしても、右翼の中に弱者を気遣う声があるのはいい。また、手ごわい相手ではあるが、そのズル賢さは許す。誰にだって、自分の都合に合わせてデータや情報源を選定する癖はあるし、バノンが使う話術は僕もよく使う。何が違うかというと......僕は正しい。

いや、そうじゃない。僕は自分が間違っている可能性を常に頭に入れているつもりだが、そんな謙虚さはバノンの口調からは微塵もうかがえなかった。これは大きく違うはずだ。

空気の読み合いが当たり前の「忖度大国」に暮らしている僕にとって、自分を曲げずに立ち向かった今回の対決は楽しかった。バノンは僕に対して「お前はめっちゃくちゃだな。直すのにずっと時間がかかる」と言っていた。僕も、バノンはめちゃくちゃ過ぎて永遠に直せないだろうと思う。

でも、もう一回話してみたい。念のために、満月の夜は避けるけど。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

ニューズウィーク日本版 英語で学ぶ国際ニュース超入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月6日/13日号(4月30日発売)は「英語で学ぶ 国際ニュース超入門」特集。トランプ2.0/関税大戦争/ウクライナ和平/中国・台湾有事/北朝鮮/韓国新大統領……etc.

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

加藤財務相、為替はベセント財務長官との間で協議 先

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

アップル、1─3月業績は予想上回る iPhoneに

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、円は日銀の見通し引き下げ受
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story