コラム

ヴェネツィア・ビエンナーレとは何か(1):水の都に集まる紳士と淑女

2015年10月07日(水)17時15分

ヴェネツィア・ビエンナーレ2011、日本パビリオンのレセプションパーティ (photo by Hiroko Ozaki)


水の都に集まる紳士と淑女
 
 「現代アートを知りたいと思ったら、まずヴェネツィアに行けばよい」とよく言われる。僕も学生や知り合いにそう言うことがある。1895年以来の伝統を誇る、最も格が高いアートの祭典。各国の最先端アートが並んだショーケースだから作品のレベルは高く、いまのトレンドがひと目でわかる。世界中からアート好きが来ていて国際的で華やか。世界屈指の観光地だから歩いているだけで楽しい。特に、一般公開前に特別招待客やプレスのみを対象に開かれるオープニングプレビューは一見の価値がある。

01_opening.JPG

オープニングプレビュー。束芋が出展した2011年の日本パビリオン (by photo Hiroko Ozaki)

 ここ数回は展示をゆっくり観て回れる時期に行くようにしているけれど、アート雑誌を作っていたころは、僕も欠かさずにプレビューに足を運んだ。物故作家以外、参加アーティストは全員そこにいる。ビエンナーレのディレクターはもちろん、各国パビリオンのキュレーターも勢揃いし、有力美術館の館長やスタッフも大勢集まっている。だから取材や情報収集にはこの上なく便利である一方、ゆっくり展示を観ることができない。あちらこちらで「久しぶり、元気?」と引き留められるし、広い会場を歩き回った後、夜は数え切れないほどのパーティがあるから、身も心も(足も胃袋も)疲れ切ってしまう。

 でも、現代アートの作品だけではなく、いまの現代アートを成立させているシステムやメカニズムを知りたければ、どうにかしてプレビューに行くことをおすすめする。シャンペンが無料で飲めるからではない。当のシステムやメカニズムを作り出し、実際に動かしている人々がほとんど集まっているからだ。あらためて言うまでもなく、上に挙げたアートワールドのVIPたちのことである。

アート界のオリンピック

 ヴェネツィア・ビエンナーレ(以下、ビエンナーレ)は、アート界のオリンピックとかワールドカップと呼ばれることがある。ジャルディーニ(ヴェネツィア最大の公園)とアルセナーレ(ヴェネツィア共和国時代の国立造船所)のふたつの主会場を中心に、各国パビリオンが金獅子賞を狙って争うことから付けられた異名だ。ではIOCやFIFAのような存在はあるのかといえば、強いて言えばビエンナーレ財団という主催者がそれに当たる。と言っても、各国に財団の下部組織があるわけではなく、IOC ともFIFAともだいぶ違う。財団の幹部が、IOC の幹部のように辞任させられたり、FIFAの幹部のように逮捕されたりすることはまずないだろう。ビエンナーレの関係者が法にもとる行為を行うことは、構造的にほぼあり得ないからだ。

03_giardini.JPG

ジャルディーニの入場口 (photo by Hiroko Ozaki)

プロフィール

小崎哲哉

1955年、東京生まれ。ウェブマガジン『REALTOKYO』『REALKYOTO』発行人兼編集長。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。2002年、20世紀に人類が犯した愚行を集めた写真集『百年の愚行』を刊行し、03年には和英バイリンガルの現代アート雑誌『ART iT』を創刊。13年にはあいちトリエンナーレ2013のパフォーミングアーツ統括プロデューサーを担当し、14年に『続・百年の愚行』を執筆・編集した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米フィンランド首脳が会談、北極の安保強化に砕氷船取

ワールド

NATO、スペイン除名を検討すべき 国防費巡り=ト

ワールド

トランプ氏、12日に中東に出発 人質解放に先立ちエ

ワールド

中国からの輸入、通商関係改善なければ「大部分」停止
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル賞の部門はどれ?
  • 3
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 4
    50代女性の睡眠時間を奪うのは高校生の子どもの弁当…
  • 5
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 6
    あなたは何型に当てはまる?「5つの睡眠タイプ」で記…
  • 7
    史上最大級の航空ミステリー、太平洋上で消息を絶っ…
  • 8
    米、ガザ戦争などの財政負担が300億ドルを突破──突出…
  • 9
    底知れぬエジプトの「可能性」を日本が引き出す理由─…
  • 10
    【クイズ】イタリアではない?...世界で最も「ニンニ…
  • 1
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレクトとは何か? 多い地域はどこか?
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    赤ちゃんの「耳」に不思議な特徴...写真をSNS投稿す…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    祖母の遺産は「2000体のアレ」だった...強迫的なコレ…
  • 8
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    更年期を快適に──筋トレで得られる心と体の4大効果
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story