コラム

「物価水準の財政理論」は正しいが不適切

2017年01月23日(月)15時00分

 これはリフレ派とはポピュリストだ、というだけのことだ、という事実を踏まえれば何の驚きもないが、しかし、現実経済への副作用としては甚大な被害を引き起こす。

 しかし、一方、物価水準の財政理論を非現実的だ、と非難する人々は、その多くは、財務省派と一般にみなされているが、実のところは、財務省派というよりは、アンチポピュリズムということであって、実は財務省の本質もアンチポピュリズムであるから、財務省的だ、という認識は正しいのだが、財務省派ではない。

 それはいいとして、彼らの議論も間違っている。

理論を悪用する者たち

 物価水準の財政理論は、理論的にも、そして現実的にもどこも間違っていない。

 現状でインフレを起こすためには、金融緩和では無理で、金融緩和は資産インフレだけを起こすのであり、資産バブルは起こせるが、実体経済の実物財のインフレを起こすことはできない。これは、実物への支出が増えなくてはインフレにならない。金利効果が現状の金融政策にない以上、それは政策で言えば、財政政策で行うしかない。そして、財政赤字の拡大が持続的であると信じられない場合には、消費の拡大が起きないのも当然だ。

 ポピュリストを論破するのは重要であるが、ポピュリストたちが利用している理論を攻撃するのは間違っている。批判は、ポピュリストたち、しかも、学者だったりエコノミストだったり、さらには政権のブレーンだったり、人々および首相などに知的に正しいことを言っていると思われている人々が、確信犯的に、政権やメディア、人々に受けたいからという理由で、理論を利用していることを徹底的に批判すべきなのだ。

【参考記事】トランプおよびその他ポピュリストたちの罪を深くしているのは誰か

                 ***

 物価水準の財政理論自体に誤りはない。メッセージも正しい。

 しかし、物価水準の財政理論を主張する人々、例えば、シムズの提言する政策を実行すべきではない。

 なぜなら、彼らの理論とメッセージは正しいが、正しいからこそ、経済を悪くするからだ。

 経済を明らかに悪くする政策である以上、それを実行してはいけない。

 彼らの理論が間違っているのは、理論やロジックそのものではない。

 その議論の前提が間違っているのだ。

 経済理論の現実社会への提言の誤りは、すべてここからくる。

 間違っているのは、すべてのコストを払ってでも物価を上げる、そのためには財政赤字拡大しかない、と言っているところだ。

 すべてのコストを払って、なぜ物価を上げる必要があるのか。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

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