最新記事
シリーズ日本再発見

イギリス人が京都で「ジン」をつくり、母国に輸出する理由

The International Spirit: Japanese Gin Coming to Europe

2017年10月30日(月)11時34分
ダニエル・デミトリュー

英ウイスキーマガジン誌の元編集長マーチン・ミラーがパートナーのデービッド・クロールと共に生み出したクラフトジン「季の美 京都ドライジン」

<ジンは"英国的"な蒸留酒だが、日本でジンを蒸留し、母国イギリスに輸出しているイギリス人がいる。果たしてその狙いとは?>

少なくとも17世紀以降、スピリッツにジュニパーベリーという香辛料などで香り付けした蒸留酒「ジン」は、"英国的であること"とほぼ同一視されてきた。

18世紀の画家ウィリアム・ホガースは、ジンに飲まれたロンドンの貧しい人々の姿を描いた。辛口のドライマティーニ(ジンとベルモットのカクテル)を好んだウィンストン・チャーチルには、ベルモットを口に含んだ執事に息を吐きかけさせ、その香りだけでジンを飲んだという逸話があった。そして、戦後イギリスの社会生活の原動力となったのは、カクテルのジントニックだった。

そのような歴史を持つイギリス人2人が、日本でジンを蒸留して母国に輸出することを決めた。一体なぜだろうか。

「熟成したジャパニーズウイスキーが品薄になってきていることと、ジンの世界的な人気が高まってきていることから、自分たちが新しい分野の開拓者になれるかもしれないと考えた」と、英ウイスキーマガジン誌の元編集長マーチン・ミラー(53歳)は言う。

ミラーは約10年前、京都を本拠とするイギリス人ビジネスパートナー、デービッド・クロール(54歳)と共に、ジャパニーズウイスキーの輸出・流通を手掛け始めた。この2人が2014年、京都にジン専門の蒸留所Number One Drinks(京都蒸溜所)を設立し、2016年にクラフトジン「季の美 京都ドライジン」を生み出したのだ。

「これは、京都で蒸留され、ブレンドされ、ボトル詰めされた初めてのジンだ」と、ミラーは言う。

蒸留酒は最近、お酒を飲む若い世代の間で人気が高まっており、独自の香り付けをしたクラフトジンの新しい市場が生まれている。ミラーによると、このトレンドは一部、親世代が好む種類のお酒を若者たちが拒絶することで勢いづいたという。

2016年の秋に京都の古い町屋で開かれた期間限定バーで初めて提供されて以来、「季の美」はマンダリン オリエンタルやザ・リッツ・カールトン、フォーシーズンズなど、東京の高級ホテルでカクテルメニューに登場している。2017年初めからは、フランス、香港、シンガポールなど海外への輸出が始まった。もちろんその中にはイギリスも含まれている。

新しい蒸留酒を作るために、クロールとミラーは、アレックス・デービスを京都に招いた。デービスは英メディアから「アルコールのウィリー・ウォンカ(映画『チャーリーとチョコレート工場』に登場する天才ショコラティエ)」と呼ばれることも多い、29歳の実験的なディステラー(蒸留の専門家)だ。

ジンは「ボタニカル」(蒸留時に加えるフルーツやスパイス)に由来する香りが全てだが、京都にはそれが豊富にあり、この地域に特有のものも多い。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

世界のエネルギー部門CO2排出量、4年連続で過去最

ビジネス

ネスレ米法人、合成着色料の使用停止へ 26年半ばま

ビジネス

製菓マースのケラノバ買収、米独禁当局が承認 EUは

ビジネス

親子上場、大いに促進すべき=孫ソフトバンクG会長
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係・仕事で後悔しないために
  • 3
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 4
    人口世界一のインドに迫る少子高齢化の波、学校閉鎖…
  • 5
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 6
    【クイズ】北大で国内初確認か...世界で最も危険な植…
  • 7
    「子どもが花嫁にされそうに...」ディズニーランド・…
  • 8
    都議選千代田区選挙区を制した「ユーチューバー」佐…
  • 9
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事…
  • 10
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 7
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 8
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 9
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 10
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中