コラム

GW、空港全身スキャンの心構え

2010年04月27日(火)17時05分


 4月26日、国交省は海外の空港で導入が加速している新型の「全身スキャナー」の日本での実用化に向け、課題を話し合うための専門家による初会合を開催した。成田空港では7月から約1カ月間、全身スキャナーの実証実験が行なわれる予定。だが乗客がブースに入ると衣服の下まで透視できるこの装置に対しては、「乗客の裸同然の画像を撮るなんてプライバシーの侵害だ」という批判も強い。

 日本での導入はまだでも、海外に行けば一足先にスキャナーデビューする可能性がある。GWに海外旅行を計画している人も多いはず。事実上の「ストリップ検査」と言われるだけに、ちょっとは心の準備が必要かと思い調べてみると・・・・・・。

 現在、全身スキャナーが導入されているのはオランダのスキポール空港(アムステルダム)、イギリスのヒースロー国際空港(ロンドン)とマンチェスター空港、フランスのシャルル・ド・ゴール国際空港(パリ)、イタリアのレオナルド・ダビンチ空港(ローマ)、カナダのピアソン国際空港(トロント)とバンクーバー国際空港など。これらの空港ではアメリカ行きの便に限って全身スキャナーを用いる場合がほとんどで、主要な検査としてではなく副次的に用いたりと、あらゆる乗客がスキャナーを通るということではないようだ。

 一方で、アメリカではこのスキャナーに出会う可能性が高くなる。米運輸保安局(TSA)によると、2010年3月時点でアメリカ国内で新型スキャナーを使用している空港の数は23に上る(来年末までに新たに1000台を購入予定)。だがアメリカの空港では、全身スキャナーの通過は乗客が任意に選べて強制ではなく、全身スキャナーの代わりに従来のように検査員の手による身体検査を選ぶこともできる(TSAによると、乗客の98%以上がスキャナーを選ぶ)。

 検査の仕方は従来の金属探知ゲートとそれほど変わらず、違うのはゲートの中で手を挙げて数秒間静止することくらい。そんなに構える必要はないのか――と思いきや、スキャナー体験者の話を聞くとそれほど単純ではないらしい。スキャナーに入って「アヤシイ」とされるのは、どうやらテロリストだけではないからだ。

 ジャーナリストのサンドラ・フィッシュが米政治ニュースサイト「ポリティクス・デイリー・ドットコム」に寄稿した体験談には、ギョッとするような事実が書かれていた。今年2月、米デンバー国際空港でフィッシュの身に起きた出来事を引用すると――。


 デンバー国際空港で従来のスキャナーを通過すると、TSAの男性職員が透明で円筒状の全身スキャナー(ミリ波を使用)に入るよう指示してきた。女性職員が、黄色の足跡の上に立って両腕を頭の上に挙げるようにと告げ、ヘッドセットのマイクにスキャン開始をささやいた・・・・・・彼女は私に、回転して緑の足跡の上に立ち、両腕を広げるようにと言った。もう1度スキャン。

 彼女は私に、スキャナーから出て少し待つようにと告げた。どこかの秘密の部屋で、ジーンズもカーディガンもタートルネックもすべて脱がされた私の体の映像を見ている誰かの言葉を待つようにと。うーむ。

 次に彼女は何かを調べると言って、手を使って私の左の乳房と胸郭を徹底的に捜査し始めた。

 実はフィッシュの左胸は、6年前の乳癌の術後に皮膚の移植とシリコンバッグで復元されたものだったのだ。


 私はこの女性職員に、自分の胸は乳癌の手術後に移植したものだと話した。彼女はこの情報を、マイクを通して見えない誰かに告げた。その数秒後、彼女は私を行かせてくれた。


 全身スキャナーに対する批判としては、肌の露出を避けるムスリム女性から裸同然の画像を得ることによる人権侵害や、衣服の下まで透視することで人工肛門や成人用のおむつ、ボディーピアスや豊胸まで露出させるという懸念が挙げられてきた。フィッシュの身に起きたことはこうした懸念が現実化した例にすぎないものの、実際の体験談は想像以上に生々しい。フィッシュによると、フィラデルフィアの空港でシャツをまくって人工肛門を露出させられた男性もいるという。

 たしかに、保安検査員が乗客の衣服の下にまで目を光らせたくなる気持ちも分かる。各空港が全身スキャナーの導入を加速させたきっかけは、昨年クリスマスに起きた「パンツ爆弾」による米航空機爆破テロ未遂事件だ。さらにイギリスの治安当局者は、国際テロ組織アルカイダの自爆テロ志願者の女性たちが、豊胸手術と同様の手法で胸部に爆発物を埋め込む手術を受けたことを示す情報をつかんでいるという。

 フィッシュの担当医が「自分の患者からこのような体験談を聞いたのは初めてだ」と言うように、ここで紹介したのは稀なケースなのかもしれない。その一方で、スキャン後の乗客がむやみに止められる可能性も否定できない。シカゴ・トリビューンによると、女性の生理用ナプキンでさえスキャン画像に映し出されるらしいのだ(こうした場合は、TSA職員が乗客に「危険がないか」を確認するという。 「アヤシイ」人でも自己申告で検査を突破できるなんて、その効果の方がよっぽど怪しそうなものだが)。

 やはり、心構えをしておくに越したことはなさそうだ。スキャナーで止められたときに、「これは○○です」と英語で説明できるくらいの準備は。

――編集部・小暮聡子

関連記事:乗客を丸裸にする全身スキャナー

 このブログの他の記事を読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

スウェーデン、ウクライナに戦闘機「グリペン」輸出へ

ワールド

イスラエル首相、ガザでのトルコ治安部隊関与に反対示

ビジネス

メタ、AI部門で約600人削減を計画=報道

ワールド

イスラエル議会、ヨルダン川西岸併合に向けた法案を承
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺している動物は?
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 6
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 9
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 10
    やっぱり王様になりたい!ホワイトハウスの一部を破…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 6
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 9
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 10
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story