コラム

ケニアとEUの経済連携協定締結は「アフリカ争奪戦」の趨勢を変える?

2023年07月07日(金)21時00分

国別でみると中国はいまやアフリカ最大の貿易相手だが、慢性的に中国側の輸出超過の状態にある。中国のアフリカからの輸入はアンゴラやスーダンなどいくつかの産油国に集中している一方、アフリカ各国に向けて工業製品を輸出している。

mutsuji230707_1.jpg

mutsuji230707_2.jpg

そのため、産油国以外のほとんどの国にとって中国との取引は大幅な入超になりやすい。

それは現地にとって中国製の安価な製品を買いやすくするものの、中国にモノを売って稼ぐことを難しくする。

つまり、ケニアのような大産油国でない国にとって、EUとのEPAは対中貿易では得られにくかった輸出拡大を期待させる。ケニアと同様の合意は2016年にガーナがEUと結んでおり、アフリカでは2例目となる。

中国の沈黙

もともとケニアは冷戦時代から、アフリカのなかでも先進国よりの外交方針が目立つ国の一つだ。

コロナ感染拡大後、中国でアフリカ人差別が噴出した際、さすがにアフリカ各国政府から中国批判が表面化したとき、ケニアはその先頭に立った国の一つだった。また、ウクライナ侵攻後に行われた国連安全保障理事会でケニア大使は軍事侵攻を批判した。

だからこそ、5月に岸田首相がアフリカ各国を歴訪した際にも訪問先に選ばれた。

こうした背景のもと、ケニアはEUとの取引を加速させる協定を結んだわけだが、アメリカとも同様の協議を行なっている。

世界銀行の統計によると、ケニアのGDPは1100億ドル(2021年)で、サハラ以南アフリカでナイジェリア、南アフリカ、エチオピアに次ぐ第4位である。

そのケニアとEUのEPA締結について、共産党系英字ニュースGlobal Timesをはじめ中国国営メディアは沈黙している。

ケニアはなぜEPA締結に応じたか

それでは、ケニアとEUのEPA締結はオセロゲームのようにアフリカ全体で勢力図が塗り替わるきっかけになるのか。

残念ながら、そう単純な話ではない。

その最大の理由は、そもそもEPAの締結で形式的には間口が広がったとしても、ケニアからの輸出が短期的にはそれほど増えないと見込まれることだ。

もともとケニアとEUのEPA締結は突然のものではなく、10年近い協議の産物でもある。EUは2014年、東アフリカ5カ国との間でEPAを締結していたが、ケニア以外の国はこれを批准しなかった。

逆に、これを批准したケニアはその後、すでにEUから無枠輸出などの優遇措置を認められてきた。こうした条件は今回の合意で大きく変わるわけではない。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

2回利下げは基本シナリオでない、インフレ高止まり懸

ビジネス

独インフレ率、1月は前年比2.1%に加速 ECB目

ビジネス

労働市場巡る「著しいリスク」、利下げ主張の理由=ウ

ビジネス

米12月PPI、前年比3.0%上昇 関税転嫁で予想
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵士供給に悩むロシアが行う「外道行為」の実態
  • 2
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    日本はすでに世界第4位の移民受け入れ国...実は開放…
  • 5
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパ…
  • 6
    日本経済を中国市場から切り離すべきなのか
  • 7
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 8
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 9
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 10
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 6
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 7
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 8
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 9
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story