コラム

極右政権になったらどうなる? 知っておきたいフランス大統領選の基礎知識5選

2022年04月22日(金)17時05分

極右政権が誕生したら

フランスでも極右への警戒心は強く、これまで国民連合の党首が大統領選挙の決選投票に進んだときには、第一回投票で3位以下になった候補に投票した有権者の多くが対立候補に投票し、極右政権の発足は実現してこなかった。

そのため今回も、ルペンが第一回投票で躍進したからといって、決選投票で勝てるかは疑問がある。とはいえ、マクロン陣営は最後まで油断なく選挙戦を続ける方針で、選挙結果はフタを開けてみなければ分からない。

仮にルペンが勝利すれば、ヨーロッパに激震が走ることは間違いない。

とりわけ、「反移民」を旗印にしてきた以上、フランスがこれまでの移民・難民政策を大きく転換させるきっかけにもなり得る。トランプ政権発足後のアメリカでヘイトクライムが急増したように、ルペンが勝利すればフランスでこれまで以上に人種間の対立がエスカレートすることが懸念される。

また、ルペンが勝利すればEUそのものが空中分解することもあり得る。

ウクライナ侵攻をきっかけに、ロシアに対抗するためヨーロッパの結束がこれまで以上に強調されるなか、大統領選挙では反EUの主張がトーンダウンしている。とはいえ、これまでEUを批判し続けたルペンが政権を握れば、フランスのEU離脱も現実味を帯びてくる(イギリスのBREXITになぞらえてFREXITという言葉も使われるようになっている)。

フランスはこれまでドイツとともにEUを牽引してきたが、そのフランスで極右政権が発足すれば、EUそのものが空中分解しかねないのだ。それはウクライナ侵攻に対する先進国の対応も動揺させるものである。

その意味で、今回の大統領選挙がヨーロッパ全体にとっても大きな意味があるのだ。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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