シリコンバレーバンク経営破綻は金融危機につながるか

3月10日に米国のシリコンバレーバンク(SVB)の経営破綻が伝わり、米欧の金融市場の景色は大きく変わった...... REUTERS/Dado Ruvic/
<米国の株式市場では、預金流出に弱い中堅銀行が、シリコンバレーバンク(SVB)と同様に破綻する懸念がくすぶっている。最近の米欧の銀行不安と当局の対応について考えたい。>
3月10日に米国のシリコンバレーバンク(SVB)の経営破綻が伝わり、この前日から米欧の金融市場の景色は大きく変わった。直後の週末12日には、米政府・財務省などが例外措置として、破綻銀行の預金全額保護などの緊急対応を行った。
その後、他の中小銀行にも預金流出が及ぶとの懸念がくすぶり、米国の株式市場では中小銀行の大幅下落が続いた。弱点がある銀行が売りターゲットになるとの思惑が、スイス大手銀行のクレディスイスにも波及して同行の株価が急落。そして、スイス政府と中銀による強権が発動されて、19日にはUBS銀行がクレディスイス銀行を救済合併するに至った。
リーマンショック時と似ていること、異なること
銀行の信用リスク分析は筆者の専門外ではあるのだが、最近の米欧の銀行不安と当局の対応について以下で考えたい。大規模銀行の経営が行き詰まる点では、2008年に起きたリーマンショック時の混乱と似ている。特に、クレディスイスは世界の金融システムへの影響が大きく、その意味で、同銀行が経営が無秩序な破綻となれば、リーマンブラザーズと同様の大きなショックを引き起こす可能性があった。
2008年にリーマンブラザーズは金融市場からの圧力に晒された中で、米政府の救済策は実現に至らず経営破綻に至った。その後、米政府の対応への疑念から、どの銀行が破綻するか分からないという疑心暗鬼が広がり、金融市場では資金流動性が干上がり経済活動も大規模な縮小に至った。当時の金融危機は、2009年3月に米政府による大手銀行の資本への政府資金の投入が実現して、米政府が金融システムを守る政策対応が実現するまで収まらず、経済活動にも甚大な影響が及んだ。
前回の金融危機が教訓になっているのだろう、米国政府などから強い要請があったとされるが、スイス政府は、UBS銀行との合併によって金融システムを保つ決断を早々に行ったとみられる。突然決まった大規模な銀行合併だったため、損失負担の扱いなどを巡り、今回の合併が実現するまでまだ紆余曲折があるかもしれない。ただ、大手銀行を破綻させ、金融システム機能を麻痺させる対応が回避されたという意味では、世界的な金融恐慌が起きた2008年と現在は異なる。
米国では、クレディスイスの様な大手銀行の問題は起きていないが、先述したがある程度の資産規模を持つ中堅銀行の経営が行き詰まった。そして、SVBの破綻は、保有するリスク資産の大きな目減りというよりも、コロナ後に増えた預金が流出に転じ、安全資産とみなされた国債などの資産の含み損が、資本を毀損させた事で起きたと位置付けられる。
一方、リーマンショック時は、住宅価格の下落によって価格が大きく下落した証券化商品を保有していたことで、多くの銀行のバランスシートが痛んでいた。現時点では住宅価格などの資産価格下落が限られる事などから、当時の様には、金融機関全体に損失を及ぼす資産の目減りが起きていないとみられる。
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