コラム

日本経済の地盤沈下を象徴する航空業界

2019年03月08日(金)12時40分

いろんな反論が聞こえてきそうである。

「日本は新幹線が発達しているからそちらに客が流れているだけではないか」──たしかにアメリカの航空旅客数が多いのは高速鉄道がないことと関係していよう。しかし、高速鉄道がとても便利なドイツや、高速鉄道の総延長があっという間に日本の10倍になった中国でも航空旅客数が急速に伸びているのに、日本ではあまり伸びていないのだから、新幹線に客が流れたせいばかりとも言えないのである。

「日本の空港施設に限界があるから乗客数を伸ばせないのではないか」──そんなことはないと思う。2000年から今日までの間に羽田に4本目、関西と成田には2本目の滑走路ができ、中部、神戸、静岡の空港が開業し、北九州空港は沖合に展開した。むしろ、空港施設が充実した割には効果があまり出ていない。

ただ、もう一度図1を眺めると、不思議な気がしてきた。日本を訪れる外国人客は2000年には476万人だったのが、2012年は836万人まで増えたのち増加のペースを速め、2018年には3119万人にもなっている。この劇的な訪日客の伸びが図1には表れていないように見えるのはなぜなのだろうか。

そこで図1の日本に関する統計の出どころである国土交通省のウェブサイトを確認すると、実は航空旅客数には日本の航空会社の数字しか含まれていないことがわかった。訪日外国人は外国の航空会社を利用することが多い。だから訪日客が増えている割には日本の航空旅客数があまり伸びていないように見えたのだ。

では日本での外国航空会社の旅客数はどうなっているのだろう。それについては日本国内の空港から国際線の飛行機に搭乗した人の数を国土交通省が発表しているのでそれを使って計算できる。つまり、図2の緑色の線が空港で国際線に乗った人の数、青の線が日本の航空会社の国際線乗客数なので、両者の差が外国航空会社の便に乗って日本を出発した人の数である。

日本の航空会社の便に乗って日本を出発した人は2009年の1534万人から2017年に2214万人へ44%の伸びだったが、外国の航空会社の方は同じ期間に714万人から2218万人へ3倍以上伸びだった。日本の航空旅客数の長期停滞というのはすなわち日本の航空会社、要するにJALとANAの長期停滞だったのである。

maukawachart20307.jpg

「日本の航空会社の長期停滞をもたらしたのは日本経済の長く続くデフレのせいだ」──JALとANAはそう主張するだろう。だが、訪日客の急増というチャンスを外国航空会社の方がはるかにうまくつかんでいるのを見ると、日本の航空会社自身にも停滞の原因がありそうだ。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、予想

ビジネス

米財務長官、FRBに利下げ求める

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story