コラム

日本の電子マネーが束になってもかなわない、中国スマホ・マネーの規模と利便性

2017年09月29日(金)08時10分

交通系ICカードだけが元寇に対抗できる日本で唯一の勢力になりうるが、現状ではまだ力不足である。そこで交通系ICカードを強くする方策を二つ提言したい。

第一に、交通系ICカード全体の名称とロゴを統一すべきだ。いまや全国どこでも使えるようになったのに、なぜ名称とロゴを統一してそのことをアピールしないのか不思議でならない。一つの名称・ロゴにすれば、全国の電車・バスだけでなく、コンビニなどでも使えるということに気づく人がぐっと増える。ここでは、交通系ICカードの統一名称を、天下統一を成し遂げた織田信長にちなんで「オダカ」と呼ぶことにしよう。

第二に、スマホ・マネーを広めたいのであれば、「おサイフケータイ」とか"Apple Pay"という商標は捨てるべきである。これらの概念が分かりにくいことが消費者をスマホ・マネーから遠ざける一因だと私は思っている。おサイフというからには携帯電話やスマホにお金を入れられると人は思ってしまうが、実際には携帯電話・スマホにまずSuicaやEdyなどのカードをいれ、そのカードにお金をチャージする必要がある。つまり、おサイフというより「カード入れ」といった方が正確なのだ。

キャッシュレスの技術革新に遅れるな

ただ、「カード入れ」といわれてもやっぱり多くの人にはピンとこない。そこで、わかりやすくするために、携帯電話・スマホのフェリカに出荷時から「オダカ」を入れた「オダカ入り携帯電話・スマホ」として売り出すことを提案する。それならば、あとはお金をチャージするだけで使えるので、わかりやすい。

いままで通り現金を使うのではダメなのですか、という根本的な疑問を持つ人も多いだろう。私自身も日本の現金生活に大きな不満はない。ただ、例えば無人コンビニなどは日本でも試みられてもよさそうなのに、日本では現金を扱わなければならないという制約があるため導入が難しい。中国でスマホ・マネーを基盤としたイノベーションが次々と起きるのに、キャッシュレス化が進まない日本ではただ指をくわえて傍観するしかなくなる。そうなることを私は危惧するのである。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:雇用激減するメキシコ国境の町、トランプ関

ビジネス

米国株式市場=小幅安、景気先行き懸念が重し 利下げ

ビジネス

NY外為市場=ドル対主要通貨で下落、軟調な雇用統計

ワールド

米国防総省、「戦争省」に改名へ トランプ氏が大統領
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 3
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 4
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 5
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 6
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 7
    「ディズニー映画そのまま...」まさかの動物の友情を…
  • 8
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 9
    謎のセレブ中国人ヤン・ランランの正体は「天竜人」?
  • 10
    キリストを包んだとされる「聖骸布」はやはり偽物だ…
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 4
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 5
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習…
  • 6
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にす…
  • 7
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 8
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 9
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 10
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 5
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 6
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 7
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 10
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story