コラム

イノベーションの街、深セン

2016年07月25日(月)16時40分

Bobby Yip-REUTERS

<「ニセ香港」として建設された深センが、今や中国のシリコンバレーともいうべき国際的イノベーション・センターに。移住者が多く、中央政府の監視から遠いゆえの自由闊達さがそこにはある> (写真のツインタワービルは、中国最大のSNS「微信(ウィーチャット)」を運営するテンセントの新本社)

 前回、ドイツ・マイセンの磁器の例から、「模倣は創造の始まり」と論じましたが、同じことは中国の深センの歩みを見ても思います。深センは元はと言えば、イギリスの植民地であった香港の中国復帰を促すために、香港と境界を接する中国側に香港とそっくりの都市を再現するという構想で建設された人工の町であり、いわば「ニセ香港」として出発しました。2000年代後半には、深センで多数の中小企業が多くの模倣品を含む「ゲリラ携帯電話」を生産していたことも記憶に新しいところです。

 深センでは今でも模倣品生産が盛んなのですが、その一方でまともな研究開発活動もきわめて盛んであり、中国の「イノベーションの首都」と言っても過言ではない状況になりました。表では北京市、天津市、上海市、深セン市で2014年の一年間になされた知財権の申請件数を比較したものです。知財権(特許、実用新案、意匠の3種類)の申請全体でみれば深センは北京に次いで2位、特許に限れば北京、上海に次いで3位です。

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 これをみて、なんだ、北京や上海の方が上じゃないかと思うかもしれませんが、北京、上海、天津と深センとでは、大学や研究機関の質と量に雲泥の差があることに注意する必要があります。中国で一流大学といえば、国家教育部が推し進める「二一一工程」(主な大学に重点的に投資するというプロジェクト)に指定されている112校が挙げられますが、北京には北京大学など24校の重点大学があり、天津には南開大学など3校、上海には復旦大学など10校あるのに対して、深センには1校もありません。

【参考記事】ドイツ発の新産業革命「インダストリー4.0」の波に乗ろうとする中国企業と、動きが鈍い日本企業

大学不毛の地

 そもそも深セン市には大学と名の付くものは深セン大学と南方科技大学の2校があるのみで、他には北京の大学の分校と専門学校(職業技術学院)があるだけです。人口が1000万人を超える大都市に大学がわずか2校というのはそもそも余りに少なすぎます。

【参考記事】中国と東欧はどっちが先進国?

 深センは中国の他の大都市と比べても「大学不毛の地」としか言いようがないですが、その割には知財権の申請数でずいぶん健闘していると言えます。表のなかで「規模以上工業企業」による知財権と特許の申請件数も示しています。「規模以上工業企業」とは小企業を除くすべての鉱工業の企業です。企業からの知財権申請のほとんどは中規模以上の鉱工業企業によって行われるでしょうから、知財権の申請件数全体から「規模以上工業企業」による申請件数を引いた数字がおよそ大学・研究機関からの申請だと推測できます。北京は企業からの知財権申請はたいしたことなくて、大学・研究機関による申請が圧倒的に多いことがわかります。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

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