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移民に厳しいのはオバマだった

2017年05月11日(木)18時30分

移民税関執行局の入り口には13年当時、オバマ抗議のビラも貼られていた JOSHUA LOTT-REUTERS

<移民制度改革を進めた「穏健派」のオバマだが、送還司令官と揶揄された強硬派の側面も>

「法と秩序の候補者」を自任していたドナルド・トランプは、米大統領選に勝つとすぐに、犯罪歴のある不法移民200万~300万人を即時送還すると宣言した。しかし就任から3カ月が過ぎて、新たに発表された統計によれば、公約どおりの「成果」は出ていない。

トランプが大統領に就任した1月20日から3月13日までの間、移民税関執行局(ICE)は不法移民2万1362人を逮捕し、5万4741人を送還した。オバマ政権下の昨年同期比で、不法移民の逮捕者は33%増だが、送還者は1・2%減少している。

オバマ政権下では、2期目となる14年の同時期に逮捕された不法移民の数は2万9238人に上る。オバマは民主党大統領としては、不法移民に対してかなりの強硬姿勢を取った。その傾向が特に強かったのは、就任後間もない時期だ。ヒスパニック系団体の会長は、オバマを「送還司令官」と呼んで非難したものだ。

このレッテルは、大統領在職中ずっとオバマに付きまとった。オバマが在任中に強制送還した不法移民は300万人以上で、主にメキシコ人だった。オバマの前任者であるクリントンやブッシュ政権でも、2期にわたる在任中に強制送還した人数はこれよりはるかに少ない。

ヒスパニック系の人権団体からの圧力が高まり、オバマの移民政策はややトーンダウンする。強制送還した人数が最も多かったのは13年の43万4015人。だが16年には34万4354人にまで減少し、ブッシュ政権時代のピークである08年の35万9795人をやや下回った。

送還の対象に例外なし

オバマは強制送還の対象者を絞り、犯罪歴があり、入国して間もない不法移民に限定するよう指示した。14年11月には対象を3段階に分類。最も優先順位が高いのは「入国して間もない者やギャングの構成員、あるいは有罪判決を受けた重罪歴か攻撃的な犯罪歴がある者」。2つ目は14年1月以降の入国者で、「3件以上の軽犯罪歴か、1件の深刻な軽犯罪歴がある者」、あるいは移民用ビザの違反者。3つ目が14年1月以降に入国し、強制送還命令を受けた者だ。

同時にオバマは、米国籍や合法的な滞在資格を持つ子供がいる場合に不法移民の強制送還を免除する措置(DAPA)の大統領令に署名。さらに、このDAPAを拡大し、不法入国した時期にまだ子供だった若年層については退去を免除しようとした。だが26州の知事が、議会の承認を得ていないとして提訴。16年6月、最高裁判事の意見が同数に分かれたことから、オバマの移民制度改革は阻止される形となった。

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