コラム

岐阜県の盗撮疑惑事件で垣間見えた、外国人技能実習制度の闇

2018年02月14日(水)19時00分

写真はイメージです Supersmario-iStock.

<寮の浴室から発見された不審な物体。若い中国人女性技能実習生たちは、会社からも仲介機関からも日本社会からも助けを得られず、困り果てていた>

こんにちは、新宿案内人の李小牧です。今回は私が激怒したある出来事についてお伝えしたい。

2月8日、SNSに不思議なメッセージが届いた。

「小牧先生、こんにちは。日本にいる女の子のためにお知恵を拝借できませんか。彼女たちは浴室で監視カメラを見つけたのですが、警察も会社も助けてくれずに困っています」

ある中国人ネットユーザーから発信されたものだ。後で聞いた話も含めて整理すると、次のような次第だという。

岐阜県大垣市のある会社で働く6人の中国人女性技能実習生たち。7日夜、寮の浴室の脱衣場で不審な物体に気が付いたという。USB ACアダプターの形をしているが、よく見ると小さな穴が空いている。

これを見た1人の女性実習生はぴんと来た。これは監視カメラに違いない、と。分解してみると、中からレンズが出てきたではないか。

lee180214-2.jpg
lee180214-3.jpg

不審なUSB ACアダプターを分解すると、レンズが出てきた(写真提供:中国人技能実習生)

翌日、彼女たちは勤め先の担当者に警察へ通報するよう掛け合ったが、取り合ってもらえない。そこで、彼女たちを技能実習生として派遣した仲介機関に通報するよう掛け合ったが、そこもあれやこれやと理由をつけて取り合おうとしない。駐名古屋中国総領事館にも連絡したが、自力で解決しろとの冷たい答えだ。

会社、仲介機関、中国総領事館。誰も救いの手を差し伸べようとしない。心底困り果てた彼女たちは友人に助けを求めた。その友人が私に連絡してきたというわけだ。異国の地で誰の助けも借りられない寂しさは私もよく分かっている。娘のような年齢の彼女たちの力になってやろうと、私はただちに大垣市に向かった。

9日午後、私は6人の技能実習生を連れて大垣警察署に向かった。盗撮事件が起きたのだからすぐに対応してもらえるかと思ったが、対応した警官はあれやこれやと理由をつけて被害届を受理しようとはしない。

というのも、日本には盗撮を罰する法律がない。この場合ならば「建造物侵入罪」で被害届を受理することになるが、それには寮の所有者である企業が届け出る必要があるのだという。盗撮被害を受けたのは6人の女性だが、彼女たちには被害届を出す権利がないというのだ。

泥混じりの水、お湯の出ない浴室......劣悪な待遇に言葉を失った

なんともひどい話ではないか。私は怒り心頭だった。彼女たちに人権はないのか。先進国・日本の法律、警察、社会はこのかわいそうな女性たちを見殺しにするのか。

プロフィール

李小牧(り・こまき)

新宿案内人
1960年、中国湖南省長沙市生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て、88年に私費留学生として来日。東京モード学園に通うかたわら新宿・歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動を始める。2002年、その体験をつづった『歌舞伎町案内人』(角川書店)がベストセラーとなり、以後、日中両国で著作活動を行う。2007年、故郷の味・湖南料理を提供するレストラン《湖南菜館》を歌舞伎町にオープン。2014年6月に日本への帰化を申請し、翌2015年2月、日本国籍を取得。同年4月の新宿区議会議員選挙に初出馬し、落選した。『歌舞伎町案内人365日』(朝日新聞出版)、『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社)、『微博の衝撃』(共著、CCCメディアハウス)など著書多数。政界挑戦の経緯は、『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)にまとめた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下

ワールド

米大統領とヨルダン国王が電話会談、ガザ停戦と人質解

ワールド

ウクライナ軍、ロシア占領下クリミアの航空基地にミサ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 7
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 8
    もろ直撃...巨大クジラがボートに激突し、転覆させる…
  • 9
    日本人は「アップデート」されたのか?...ジョージア…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 6
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story