コラム

データマイニングは犯罪対策をどう変えたのか? 日本が十分に駆使しきれていない「意外な理由」

2025年06月09日(月)11時00分
ビッグデータ

(写真はイメージです) Gorodenkoff-Shutterstock

<従来の統計分析が「回顧型・確認型」なら、データマイニングは「未来型・発見型」だという──犯罪予測の新たな地平を切り開いたこの手法について解説する>

世はビッグデータの時代である。犯罪対策においても、ビッグデータに基づく最先端テクノロジーの利用が加速している。その関係で、数学的手法や統計的手法も事件解決や犯罪予防に使われるようになった。その模様は、米国テレビドラマ『ナンバーズ―天才数学者の事件ファイル』でも細かく描かれている。

例えば、「データマイニング」(data mining)も、注目を集めている一手法だ。

データマイニングとは、膨大な情報の中から有益な法則を探し出すことである。マイニングは採掘を意味するので、巨大なデータの山をコンピュータで掘り進み、思わぬ金脈を掘り当てるというニュアンスがある。

これがトレンドになっているのは、情報の保存と流通コストが一気に下がったからだ。その結果、情報爆発が起き、ビッグデータと呼ばれる多種大量でスピーディーな情報が得られるようになった。ビッグデータを使えば分析の範囲と深度が飛躍的に増す。データマイニングの特徴はまさにこのことだ。

従来の統計分析は、想定した法則が本当かどうかを、収集可能な情報を使ってチェックするというものだった。自分が過去に気づいたことの裏付けをすることなので、これは回顧型・確認型の分析手法だ。しかし、入手可能な情報の量と質が向上したデータマイニングでは、これまで気づかなかったことが浮かび上がってくる。つまり未来型・発見型である。

『ナンバーズ』でも、データマイニングによって、①無関係に見えた住居侵入強盗と自動車強盗が同一グループによる犯行だったことを見つけるストーリー、②被害者によって契約していた保険会社はまちまちだが、データマイニングの過程でそれらの再保険会社(他の保険会社の保険責任を引き受けることを業務とする保険会社)が同一であることに気づくストーリー、③テキストマイニングでインターネットのチャットルームの会話ログを分析するストーリーなどが展開されている。

このように、データマイニングは犯罪予測の新たな地平を切り開いた。

プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページとYouTube チャンネルは「小宮信夫の犯罪学の部屋」。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ルラ氏支持率、9カ月ぶり不支持率上回る 米との対立

ビジネス

LSEG、上半期総利益が増加 サブスクリプションは

ワールド

「米国の関税率20%は一時的」と台湾、引き下げ交渉

ビジネス

伊藤忠の4─6月期、資産売却で純利益37%増 非資
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 4
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 5
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 6
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 7
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 8
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 9
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 10
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 8
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 9
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 10
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story